お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「逢坂先生、いつも駅から歩きでしょ? 送っていきますよ」

「大丈夫ですよ。すぐ近くなので」

「逢坂先生、送ってもらいなさい。なにかあったら大変よ。お酒も入っているし」

 川島先生の申し出をやんわり断ろうとしたが、萩野先生が真剣な顔で言ってきたので、それ以上強く拒否できなくなる。

 大知さんに連絡して来てもらう? でも逆にわざわざ出てきて迎えに来てもらうほどの距離でもない。なら、ここは厚意に甘えようか。

 とりあえず帰っていることだけは伝えよう。そう思いタクシーの中で用意していた文面を送信する。

 そして、結果的に萩野先生を私と川島先生で見送り、私たちは歩き出した。男の人とふたりだと変に緊張してしまう。

「すみません、わざわざ……」

 沈黙も妙だと思い私からたどたどしく口を開いた。

「いえ、逢坂先生とふたりになれてうれしいですよ」

 川島先生の言い分に、思わず足を止めそうになる。おそらく冗談だ。だとしても、なんて返したらいいのかとっさに言葉が出てこない。

「あの」

「よかったら付き合いませんか?」

 聞き間違いでなければ、川島先生からとんでもない発言が飛び出し、私は今度こそ足を止めた。

「もちろん男女の仲でってことです」

 どう受け取っていいのか混乱する私に、彼は念押しするように告げてきた。

「私、結婚していて……」

「知っていますよ。だから割り切った付き合いを提案しているんです。逢坂先生、旦那さんも忙しくて、あまり夫婦仲もいいわけじゃないんでしょ?」

 にこりと言い切る川島先生に対し、さすがに嫌悪感で眉をつり上げる。しかし彼はあっけらかんと続ける。
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