お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「なら、せっかくですし私ではなく大知さんの希望するところを」

「俺の希望は、千紗の望むところに一緒に行くことだよ」

 私の言葉を遮り、大知さんは力強く答えた。しばし迷ったが素直に受け入れる。

 くすぐったさに似た喜びが湧き上がり胸を温かくする。

「……ありがとうございます。考えておきますね」

 彼がソファから腰を浮かすタイミングで、私も立ち上がる。お互いに向かい合って目が合った。

「風呂に入ってくるから、先に部屋で休むといい」

「はい」

 軽く頷くと、さりげなく唇を重ねられる。

「おやすみ」

 私の頭を撫で、大知さんは自分の飲んでいたカップを持ってキッチンに向かった。そんな彼の背中を黙って見送り、ややあってバスルームのドアが閉まった音で我に返る。

 彼のすべてにいちいち動揺しすぎだ。子どもならまだしも、私は彼と結婚しているのに。対照的に大知さんはどこまでも冷静だった。

『千紗のそういう素直なところ、好きだよ』

 思い出して、熱くなっている頬を押さえる。

『千紗。俺は好きだよ』

 彼に『好き』と言われたのは二度目だ。

 舞い上がりそうになるのを抑え込み、飲みかけの自分のカップを片付ける。

 私、やっぱり大知さんが好きなんだ。結婚した今もこうして彼に恋をしている。

 一方的な片想いじゃないんだよね? 大知さんも少しは私を想ってくれている。求めてもらえているんだ、

 どこに一緒に行こう。大知さんとならどこでもかまわないのに、私の希望を優先してくれる大知さんの優しさがうれしくて、笑顔になった。
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