お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「行こうか」

「あ、はい」

 気づけばドアのところまで来ていた大知さんに促され、私たちは玄関に向かう。靴を履き終え、家の鍵をかけたところで大知さんと目が合った。

 心臓が小さく跳ね上がったのとほぼ同時に彼は微笑む。

「千紗はそういう格好が好きだな」

 とっさにどう受け取っていいのか迷って、うろたえつつ尋ね返す。

「変でしょうか?」

 大人っぽい彼と並んで歩くには不釣り合いだろうか。

 反射的に下をむいて自分の服装を確認する。

「まさか。よく似合っている。可愛いよ」

 そっと頭に触れられ、下ろしている髪先に指を滑らされる。続けて歩を進め出す彼に対し、横ではなくうしろにつく感じで私も歩き出す。

 きっと今、自分の顔は赤くなっているに違いないから、見られるわけにはいかない。大知さんは気づいていないんだろうな。

 彼の一挙一動にいつも私の気持ちが晴れたり曇ったりしているなんて。

 駐車場に停めている彼の車の助手席に乗り込む。一応私も免許は持っているが、あまり乗らないので我が家は大知さんの車一台のみ所有している。

 ちらりと運転する大知さんを盗み見る。涼しげな横顔は理知的で、短くも流れるような艶のある黒髪は女の私から見ても羨ましい。

 学生の頃カッコイイと思っていた彼の容姿を改めて形容するなら、綺麗という言葉が適切かもしれない。

 なにもかも見透かすようなあの目で真っすぐに見つめられたら、たいていの人は正直に自分の罪を告白してしまう気がする。
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