お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 大知さんの法服姿、また見たいな。

 裁判をしている大知さんを一度だけ見る機会があった。

 大学生ときに両親の勧めもあり、社会勉強を兼ねて裁判の傍聴に行ったのだ。父の職場ではあるが裁判を見るのは初めてで、大学の夏休みを利用して裁判所の見学イベントに申し込んだ。

 そのときの裁判の左陪席にいたのが大知さんだった。

 任官したばかりの彼は、真っ黒な法服に身を包み、凛として裁判に臨んでいた。

 厳粛な法廷の雰囲気にとても合っていて、いつも実家で会う彼とはまた違っている。元々そこまで親しいわけではないが、まるで知らない人のように感じた。

 だから法廷後に別室で裁判長と共に見学者たちの質問に答えてくれた際も、 私は質問どころか彼と目を合わすのさえできなかった。

『街中で判決を下した人と会ったりしたらどうしますか?』『どうして裁判官になろうと思いましたか?』

 様々な質問が飛び交う中、最後に『裁判官の立場で大事にしていることを教えてください』と投げかけられた。

 裁判長が答えた後、大知さんは少しだけ悩んでからゆっくりと口を開いた。

『大なり小なり多くの人の人生を変えるほど、裁判の影響は大きいと思っています。だからこそ、いつもその時々で最善を尽くせるよう努力は惜しまずにいたいですね』

 裁判官として多くの裁判を日々こなす中、当事者にとってはその一回の裁判のために、たくさんの時間や労力などを使い法廷に立っている。
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