お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「パジャマ、着るか?」

 優しく問いかけられて、自分から勢いよく大知さんに密着した。

「このままでいいですか? ……このままでいたいです」

 彼の返事を待たずに言い直す。勝手を言っているのは重々承知だ。でもこれ以上、大知さんと距離ができるのが怖かった。

 嫌じゃない。求めてもらえて嬉しかったのに……。

 肌同士が触れるのが、こんなにも心地いいなんて知らなかった。伝わる温もりに安心して、泣きそうになるのも。

 それは全部、相手が大知さんだからだ。他の人ではけっして得られない。

 密着し聞こえてくる規則正しい心音。心が落ち着いてきて、徐々に眠気を誘う。

 大知さん、怒っている……よね?

 大知さんは頭をそっと撫でてくれたがどこかぎこちなく、抱きしめ返してもくれない。

 当たり前だよね。それとも久しぶりに私に触れようとしてくれたのも、むしろ気を使ってだったのかな? やっぱり夫婦の義務だと感じて?

 すぐそばに本人がいるのに聞けない。

「大、知……さん」

 重くなる瞼と格闘しながら彼の名前を呼ぶ。

 好きです。ずっと前から……。お姉ちゃんよりもあなたを想っているし、大好きなんです。

 姉に敵わないところがたくさんあるのは理解している。でもこれだけは、揺るぎない絶対の自信がある。

 唇に温もりを感じたのは、気のせいだったのか。大知さんの体温に包まれ、私は夢の中へと旅立った。
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