お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 それは妻として? やっぱり今の私では大知さんにとって物足りないのかな。

 ただ、これだけは伝えておかないと。

「大知さんに、触られるの……好き、です」

 触れられることだけじゃない。大知さん自身が好き。けれどそれを言う前にキスで口を塞がれ声にならない。

「あっ……んん」

 舌をからめとられ、巧みな口づけに翻弄される。パジャマはすっかりたくし上げられ、今の自分はあられもない姿をしているのが容易に想像できた。

 でも考えないようにして、自分から大知さんの首に腕を回す。

 彼が好きだという気持ちがあふれて、もっと触れてほしい、愛してほしいという想いでいっぱいになっていく。

「千紗」

 唇が離れ、至近距離で低く艶っぽい声が鼓膜を震わせた。

 そのとき突然スマートホンが振動し、完全な不意打ちで心臓が口から飛び出しそうになる。

 ヴーヴーと独特のバイブレーションの音が長々と響き、思わず息をのんだ。おそらく電話だ。

 とはいえこの状況で取るに取れない。大知さんもちらりとそちらを見て、私たちを包んでいた熱っぽい空気が消える。

 ややあってスマートホンは止まり、着信を知らせるLEDライトが点滅していた。

 そのまま確認しないのも気になるのでそろそろとスマートホンに手を伸ばし、相手を確認する。

 この時間に私に電話してくる人物は限られているから、ある程度予想はついていた。
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