総長は、甘くて危険な吸血鬼
「胡桃ー」
『……』
「胡桃ーー、随分長いけどのぼせてない?」
『……』
何回か呼びかけたけど返事がない
………返事が、ない
…心臓がどくんと嫌な音を立てた。
「ごめん、ちょっと入るよ」
お風呂場のドアを開けると、湯気に包まれた空間の奥の浴槽に浸かる胡桃がいた。
淵に両腕を乗せてこちら側を向いているので身体は隠れているけど、目は半分閉じていて、意識がぼんやりしているように見える。
「さっき間違えてお酒出しちゃったみたいで、のぼせたら危ないからそろそろあがりな?」
『んー…』
…時すでに遅し。って感じ。
幸い、胡桃は体にタオルを巻いていたので、そのまま手を差し出した。
「とりあえずほら、手掴んでいいから」
とはいえ流石に目のやり場に困る。
なるべく目を逸らして歩き出そうとした瞬間、胡桃の身体がふらりと崩れ、俺に倒れかかってきた。反射的に抱き止める。受け止めたはいいけど、体が密着して焦って手を離しそうになる。
「ちょ、胡桃、あんまり密着しないで…っ」
濡れた肌が直接触れていて、流石に俺も平常心ではいられない。
いつもの胡桃ならすぐに赤くなって距離を取るのに、今は力が抜けて俺に身を委ねたまま。
「…ちょっと触るけど許してね」
覚悟を決めて抱き上げる。
華奢な体を腕に収めた瞬間、心臓が一気に跳ね上がった。