【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「何って、血を…」
そう言いかけて、言葉に詰まった朔。
ボタンを外そうとしていた手をそっと下ろして、私の背中に寄りかかるように頭を寄せてきた。
「…僕のこと怖い?」
『何で…』
「…震えてる」
指摘されて気づいたけど、確かに私の身体は微かに震えていた。
怖くないはずがない。
優しい朔と、冷酷で何を考えているか分からない朔が、目の前で何度も入れ替わるんだから。
どれが本物の朔なのか、今の私にはもう何一つ分からなかった。
「無理矢理連れてきてごめん」
背中から伝わってくる謝罪の声は妙に穏やかで、だからこそ余計に怖かった。
……私、もう朔のことが全然分からないよ。
『…!』
そんな沈黙を破るかのように、私の携帯から着信音が鳴った。
あの時天音くんに奪われたから没収されてると思っていたけど、普通にスカートのポケットに入っていたらしい。
取り出して画面を見ると、“赤羽叶兎”の文字。
天音くんの時と違って、朔は携帯を奪ってこようとはしてこなかった。
ただ静かに、背後から私と携帯の画面をじっと見つめている。
……この電話、出てもいいのだろうか?