総長は、甘くて危険な吸血鬼
「こんなところでイチャイチャするな」
「いたっ」
突然乾いた音が響いて、叶兎くんが頭を押さえた。
甘ったるい空気に耐えきれなくなったのか、すぐ後ろにいた桐葉くんが、遠慮もなく叶兎くんの頭をはたいたのだ。
「ちょっと凪、暴力反対」
全く反省の様子を見せない叶兎くんに、桐葉くんは冷ややかな眼差しを投げる。
そのじとーっとした目は、言葉以上に辛辣だった。
「叶兎、もう平気になったのか?」
後ろから肩を軽く叩かれて振り返ると、九条くんが小声で声をかけてきた。
平気……というのは、この前の話だろう
叶兎くんが制御を失いかけた時、真っ先に止めてくれたのは九条くんだった。
あの時の冷静な判断と的確な対処法がなければ、もっと大事になっていただろう。
『うん!』
小さく頷くと、九条くんの視線がふと私の胸元に止まった。
「……もしかして、それって」
九条くんが指さしたのは、私が首にかけていたネックレス。
昨日、叶兎くんから渡された指輪だった。
これは吸血鬼が心を決めた相手に送るという伝統なんだとか。
「したんだ、契約。…へぇ、ルビーの宝石にネックレスか…叶兎らしいな」
『叶兎くんらしい?』
「その指輪が伝統なだけで、彫る宝石は自分で決めるんだよ。渡し方も自由だし。その辺の話は聞いてねーの?」
指輪をよく見ると周りには小さく赤い宝石が散りばめられていて、太陽の光に照らされて輝きを増している。
叶兎くんの瞳と同じ、真っ赤なルビーの宝石。
ルビーの石言葉は確か、“情熱、愛情…”
一般的にも有名な宝石だから、私でもなんとなく知っている。