【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



あまりに真っ直ぐ射抜いてくる叶兎くんの視線に耐えられなくなったのか、天音くんが押し殺していた声が一気に爆発する。



「……俺はもう、お前達の敵なんだよ!仲間でも、なんでもない!」



天音くんは感情のままに叫びながら走り出し、叶兎くんとの距離を一気に詰めた。

そして、怒りに任せて拳を高く振り上げる。


けれど叶兎くんは、その猛烈な拳を避けようともせず、防ごうともしなかった。

ただその場で堂々と立ち尽くし、真っ直ぐに天音くんの瞳を見つめ返している。


全く無防備な態度の叶兎くんに、周りのみんなは思わず息を呑んだけど、二人の間に割り込む者は誰もいなかった。



「っ……!」



天音くんは叶兎くんの頬を目掛けて思い切り拳を振り下ろそうとした──けれど。


皮膚に触れるすれすれのところで、ピタリと動きを止めた。


振り上げられた握りこぶしは小刻みに震えていて、力を込めようとすればするほど、どうしても動かせなくなっている。



「……殴れよ」



叶兎くんが挑発するように、真っ直ぐに告げた。

その真紅の瞳には恐怖も警戒もなく、『お前のことなんて見捨ててない』という固い意志が物語られていた。



「……チッ」



握りしめた拳が力なく下ろされ、苛立ち紛れに髪をかきあげる。

乱暴な仕草の奥に、どうしようもない迷いが透けて見えた。



「…………はぁ。…俺、自分の心に、嘘は付けないみたい。………お前の事…殴れるわけないだろ…」



天音くんは突っ立ったまま俯き、ポツリと弱々しく呟いた。

取り繕うような強がりではなく、胸の奥から絞り出すように自然と溢れ出た本音。


さっきまでの棘立った威圧感はもう空気の中に溶けて消えていて。

そこにいたのは、どうしようもなく追い詰められ、途方に暮れる一人の傷ついた少年だった。




「……俺はずっと、みんなを騙してた。………聞いてくれる?俺の、過去の話…」




誰も返せない沈黙を肯定と受け取ったのか、天音くんはゆっくりと目を閉じた。




──そして、ぽつりぽつりと語り始めた。







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