【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「僕………は……」
正気に戻った朔は自分の両手のひらを呆然と見つめ、消え入りそうな掠れた声でぽつりと呟いた。
拳銃を握りしめていた指先は、今もカタカタと情けなく震えている。
私は傷つく肩を庇いながら、朔の視線に合わせて一緒に地面にしゃがみ込もうとしたけど──。
「……おい、もう時間がないぞ!」
蓮水さんのその声に周囲を見渡せば、炎と煙が容赦なく迫ってきていた。
天井は崩れ落ちそうに軋み、火の粉が髪に散っては弾けていく。
目の前のことに必死で、今自分たちが置かれている状況を完全に忘れていた。
このままじゃ、全員まとめて火に呑まれる。
もう、ゆっくりしている暇は無い。
けれど、危険を察知して顔を上げた瞬間──急激に視界がぐらりと激しく霞んだ。
頭の奥がじんじんと嫌な熱を帯びて重くなっていく。
全身が燃えるように火照って、ゼーゼーと荒い息がうまく胸に入ってこない。
……熱い……息が……できない……っ。
立っているだけで足元がグラグラと大きく揺らぎそうになった。
さっき銃弾に撃たれた肩の傷口から、身体中へ猛烈な毒のような熱が広がっていくのが分かる。
「この建物はもう限界だ。俺が出口まで案内する、全員着いてこい」
先頭に立つ蓮水さんの指示に、みんなが一列になって出口へと走り出すけど──。
ただ一人、朔だけはその場所から頑なに動こうとしなかった。
ボロボロの床に力なく座り込んだまま顔を深く伏せ、強く唇を噛みしめている。
燃えさかる炎の嵐の中で、そこだけ時間が止まってしまったみたいに動かない。
『朔…っ!立って、早く逃げよう…!!』
「……僕には…逃げる権利なんて………ない」
朔は目を伏せたまま、震える声で言った。
「……今まで、沢山酷いことをした……くーちゃんにだって、僕の、せいで……」
……朔…。
理性を取り戻した朔は、後悔と罪悪感に押し潰されて、立ち上がることすらできない様子だった。
「僕は……ここで……」
朔がBLACKSKYで何をしてきたのかは知らないけど、蓮水さんが朔を放っておけなくなるほど状況は酷かったのだろう。
私だって、朔の事を肯定しているわけじゃない。
でも、だからといって、こんな償い方は許せなかった。