総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ


『…朔』


静かに名前を呼ぶと、朔に瞳が揺れる、銃口がわずかに下がる。
でもまた苦しげに顔を歪め、握る手に力を込め直した。


「……来るな!僕にっ…近寄るな……!」


必死に押し殺した声。
まるで自分自身をも拒絶するような響きだった。


私は一歩、また一歩と近づいて…飛び込むように、朔を抱きしめた。

銃口がすぐ横にある。
少しでも力が入れば、また引き金が引かれるかもしれない。

背筋が冷たくなる。怖くない訳じゃない。


それでも、腕を回した。

さっきまでは朔が私を離そうとしなかったのに、今は離れようと、力任せに押し返してくる。


『朔、…目を覚ましてよ…』


きゅっと腕に力を込める。
その瞬間、彼の抵抗が一瞬だけ弱まった。


「…くーちゃんは、あいつの事が好きで。僕の事なんかどうでもいいんでしょ」


『どうでも良い訳ない…!…確かに、私は叶兎くんの事が好きだよ…でも…、“好き”って…1つだけじゃないでしょ?』


胸元に顔を埋め、落ち着くように言葉を紡ぐ。


『……本当の朔は…こんなことする人じゃないの知ってる。こんな能力に呑まれて…壊れるような人じゃない。友達として、幼馴染として…私は朔の事が好きだよ』


張りつめた空気が少しずつほどけていくのが分かった。
重苦しい圧力が薄れて、胸の奥に温かい光が広がる。


……やっと──無効化の力が応えてくれた。


握りしめられていた朔の拳から、力が抜け、

銃口がゆっくりと下がった。


肩で荒く息をしていた朔の呼吸が少しずつ整っていき、狂気の光に染まっていた瞳から焦点の合わない濁りが薄れていく。



私は最後に、はっきりと伝えた。



『……朔は、一人じゃないよ』



カタン──。

乾いた音とともに、銃が床に転がり

その瞬間、朔の全身から力が抜け、床に崩れ落ちた。

< 343 / 405 >

この作品をシェア

pagetop