【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「胡桃ちゃん!久しぶりね〜!ドレス姿めちゃくちゃかわいい〜っ!!」
『えっ、あの、きゃっ!?』
言われるがまま勢いに押し切られ、ふわっと漂う上質な高級香水の甘い香りと共に、華恋さんの柔らかで暖かい腕の中にすっぽりと抱きしめられた。
驚く隙すら与えられないまま、すりすりと頬を寄せられて、私の声は裏返ってしまう。
「ちょっと!」
叶兎くんが慌てた様子で華恋さんの腕を引っ張り、私を引き剥がそうと試みる。
すると華恋さんは、私を抱きしめたまま「にやり」と意地悪で楽しそうな笑みを浮かべた。
「あらあら〜? なにかしらその顔は? 大好きな胡桃ちゃんを取られて嫉妬?」
「……母さん……!」
叶兎くんは眉間にシワを寄せながらも、どこかバツが悪そうに照れて明後日の方向へと視線を逸らした。
白い肌の頬がうっすらと赤く染まっていて、その不器用な反応があまりにも可愛くて、私は思わずクスクスと笑ってしまう。
叶兎くんがこんなに振り回されてタジタジになってるの、すごく珍しいな……!
さすが、お母さんには敵わないんだね。
そんな親子のやり取りを後ろから眺めていた湊さんは、華恋さんの嵐のような暴走ぶりに少し呆れたような溜息をつきつつも、どこか愛おしそうに静かに目を細めて笑っていた。
「……本当に変わったな、叶兎。」
「こんな顔、昔は絶対しなかったのにねぇ。」
華恋さんが満足そうにそう言うと、叶兎くんはますます居心地が悪いと言わんばかりにフイッと横を向く。
そんな彼らのやり取りを見ているだけで、叶兎くんがどれほど温かい愛に包まれて大切に育てられてきたのかが、自然と胸に伝わってきてあたたかい気持ちになった。
「胡桃ちゃん、本当にありがとうね。」
『い、いえっ……そんな……!私のほうこそ、叶兎くんにたくさん助けてもらってばっかりで…!』
華恋さんの笑顔を向けられると、まるで家族に受け入れられたみたいで心がふわっと軽くなる。
すると、急に何かを思い出したように叶兎くんが不思議そうに首を傾げた。
「……ていうかさ。母さんたちと胡桃って、いつの間にそんな親しくなったの?会ったことあるわけ?」
「うん!文化祭の時にね〜っ♪」
……あの時のこと、叶兎くんには言ってない。
だって、あの時話した内容なんて本人に聞かれたくないもん……!