総長は、甘くて危険な吸血鬼



「ほんとは式典までに改めて挨拶するつもりだったんだけど、時間が取れなくて。……でも胡桃ちゃんとは恋バナしたのよ?」

『えっ』



楽しげに笑う華恋さんの言葉に、思わず声が裏返った。

華恋さん…まさかあの時の話覚えて…!!



「叶兎のこと“大好き”って顔してたの、すぐ分かったもの!」

『ちょ、ちょっとっ!?そ、そんな話してません!!』

「え〜?してたしてた!でも私たちだけの秘密だもんねっ♪」



悪戯っぽく笑いながら、華恋さんがウインクする。

も、もう……



「は?ずるい、その話俺知らないんだけど」



叶兎くんがむくれるように言い、親子の掛け合いがまるで漫才みたいに続く。

こうして笑い合う彼らを見ていると、また叶兎くんの知らない一面が見れたみたいで嬉しい。
そしてこの家族の中に私を受け入れてくれたことが、なによりも心を安心させてくれた。

その横で、湊さんが静かに私へと声をかける。



「胡桃ちゃん。これからも、息子のことをよろしく頼むよ。」

『……はい!』



自然と背筋が伸びて、言葉に力がこもった。

すると、叶兎くんが横で一瞬だけ微笑んで、その優しい表情を見た華恋さんがまた小さく悲鳴を上げる。



「も〜〜!なんて顔してるのよ叶兎!幸せ者めっ!」



両手で頬を押さえて大騒ぎする華恋さん。

まるで女子高生みたいに目を輝かせる姿が、つい私も見ていて愛しくなる。
湊さんは「やれやれ」と息をつきながらも口元には笑みが滲んでいた。



「……じゃ、俺たちは広間の方で待ってる。行くぞ、華恋。」

「え〜もう行くの!?私まだ胡桃ちゃんと話したりな──」

「式典前で緊張してるだろ。終わってからゆっくり話せばいい。」

「うぅ……胡桃ちゃん、またあとでね!あ、また恋バナしようね〜!」



湊さんに引かれるまま、名残惜しそうに手を振りながら出ていく華恋さん。
その背中を見送りながら、私は思わず小さく笑った。

扉が閉まると、再び静寂が戻る。



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