総長は、甘くて危険な吸血鬼
「ごめん……うちの母さん、いつもあんな感じで強引で。」
叶兎くんが少し困ったように笑う。
『ふふ、叶兎くんの強引さって、お母さん譲りなのかな?』
「……そうかも。」
ふっと笑って、叶兎くんが一歩近づいてきた。
その影が私の顔の上に落ちる。
そして──額に、優しい感触が触れた。
『……!? か、叶兎くんっ!』
瞳を見開いたまま、息を飲む。
「隙あり。」
小さく笑うその声はいつもより低くて少し意地悪。
スーツの襟の隙間から微かに香る彼の匂いに、鼓動がうるさくなる。
『も、もう……!』
不意打ちで恥ずかしさに顔を隠したけど、耳まで熱くなっているのが自分でも分かった。
叶兎くんはそんな私の手を取り、指先を絡めながら言う。
「行こ!White Lillyのみんな、もう来てるはずだから。」
その手のひらはあたたかくて包み込まれるみたいで。
さっきまでの不安をかき消してくれる。まるで「大丈夫」って言葉の代わりみたいに、安心をくれた。
式典前だというのに今日も彼に翻弄されっぱなし。
でも──そんな毎日が、どうしようもなく楽しかった。