【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ



「ほんとは式典が始まるまでに、改めておうちで挨拶するつもりだったんだけどね。お互い忙しくて時間が取れなくて……。でもね! 胡桃ちゃんとはあの時、たっぷりガールズトーク……ううん、恋バナをしたのよ〜っ♪」

『ええっっ!?』



楽しそうにはしゃぐ華恋さんの口から出た言葉に、私は思わず素で絶叫しそうになった。

華恋さん…まさかあの時の話覚えて…!!



「叶兎のこと“大好き”って顔してたの、すぐ分かったもの!」

『ちょ、ちょっとっ!?そ、そんな話してません!!』

「え〜?してたしてた!でも私たちだけの秘密だもんねっ♪」



悪戯っぽく笑いながら、華恋さんがウインクする。

も、もう……!



「は?ずるい、その話俺知らないんだけど」



案の定、叶兎くんが眉をひそめて不満そうにむくれる。

まるで仲の良い兄弟か漫才コンビのような親子の掛け合いが目の前で繰り広げられ、私は冷や冷やしながらも笑いが止まらなかった。

こうして笑い合う彼らを見ていると、また私の知らない叶兎くんの新しい一面を見られたみたいで、すごく愛おしくなる。


そして何より、この温かい家族の中に私が当たり前のように受け入れられていることが、式典前の私の緊張をすっかり解きほぐしてくれていた。


その横で、今まで静かに見守っていた湊さんが、ゆっくりと私の方へ歩み寄ると優しく声をかけてくれる。



「胡桃ちゃん。これからも、息子のことをよろしく頼むよ。」

『……はい!』



深く温かいその言葉に、私は自然と背筋をピシッと伸ばし、心を込めて力強くお返事をすると、私の隣で叶兎くんが照れくさそうに一瞬だけふっと愛おしそうに微笑んだ。

そのあまりに優しくて幸せそうな息子の表情を見逃さなかった華恋さんが、再び小さく黄色い悲鳴を上げる。



「も〜〜!なんて顔してるのよ叶兎!幸せ者めっ!」



両手で頬を押さえて大騒ぎする華恋さん。

まるで現役の女子高生みたいに目を輝かせてはしゃぐ姿が可愛らしくて、私まで見ていてほっこりしてしまう。

湊さんは「やれやれ」と困ったように深く溜息をついていたけれど、その口元には隠しきれない温かい笑みが滲んでいた。



「……じゃ、俺たちは広間の方で待ってる。行くぞ、華恋。」

「え〜もう行くの!?私まだ胡桃ちゃんと話したりな──」

「式典前で緊張してるだろ。終わってからゆっくり話せばいい。」

「うぅ……胡桃ちゃん、またあとでね!あ、また恋バナしようね〜!」



湊さんに腕を引かれるまま、名残惜しそうにブンブンと手を振りながら部屋を出ていく華恋さん。

嵐のように去っていったお二人の賑やかな背中を見送りながら、私は胸が温かくなって小さく吹き出してしまった。



バタン、と重厚な扉が静かに閉まり、部屋の中に再び穏やかな静寂が戻ってくる。



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