【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
式典は無事に終わりホールに再び賑やかさが戻ると、あの厳かな空気が嘘みたいに騒がしくなっていた。
そして、その中心にいるのは間違いなく叶兎くんだ。
次から次へと挨拶にやってくる名高い吸血鬼たちに囲まれながらも、叶兎くんは一人ひとりの目をしっかりと見て、誠実に言葉を返している。
背筋をピンと伸ばしたその姿勢も誇らしげな表情も、すっかり新しい“トップの顔”になっていた。
私は壁際にそっと寄り添うように立ち、そんな叶兎くんの頼もしい姿を遠くから見つめながら、ほっと胸を撫でおろす。
……叶兎くん、本当にすごいなぁ。あんなに大勢の人に囲まれても、ちっとも動じないなんて……。
手に持っていたジュースのグラスを口元へ傾けた──まさにその瞬間。
華やかな人混みの隙間を、見覚えのある後ろ姿がすーっと横切っていくのが見えた。
『……え、朔?』
思わず呟いた。
…見間違いじゃない。
会場の出口の方へ歩いていくその姿を、私は無意識に追いかけていた。
『ま、待って!』
廊下に出てやっと袖を掴む。
振り返った朔は、少し驚いたように目を見開いた。
「……!?くーちゃん……」
その声には、少しだけ戸惑いが混ざっていた。
『やっぱり朔だ!……久しぶりだね』
私が笑うと、朔は小さく頷いた。
けれどすぐに、どこか言葉を飲み込むように視線を逸らされる。
『聞いたよ。お父さんのところで働いてるって。』
「……うん。」
その返事は小さくて、照明の下で少しだけ肩が強張って見えた。
そして、ほんの短い沈黙のあと──。
「……くーちゃん、本当にごめん。」
朔は押し殺すような声で、ぽつりと零した。
『え……?』
「僕のせいで、あんな怪我……。僕が能力をちゃんと扱えていたら…」
朔は唇を噛んで、俯いたまま拳を握る。
…ずっと、あの日のこと気にしてたんだ。