【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ




『…え…っ!』

「危ないっ…!」



ドボンッ!!と大きな水音が響き、冷たい川の水が容赦なく全身を襲った。

初めは何が起きたのかさえ分からなくて、濁った水中で視界が真っ暗になる。

ゴボッと口から空気が漏れ、息ができなくて、ただただ苦しくて怖くて。


私は、川に落ちたのだと分かった。


…あぁ、もう、だめだ。


恐怖で意識が遠のきそうになったその時、冷たい濁流の中で、私の腕を強引に引っ張る強い力があった。



「はぁっ……!げほっ、くーちゃんっ!くーちゃん!!」



気づけば私は川の岸辺に引き揚げられていて、全身びしょ濡れになった朔が、息を切らしながら私を必死に抱きしめていた。



『……けほっ………!あり、がと…っ。』

「バカ!!…ほんと、焦った」



声が震えていて、苦しいぐらいに力強く抱きしめられた。



『ご、ごめん……。……でも、なんで、来てくれたの……危ないのに…』

「…なんか、体が勝手に動いたんだよ」



息を整えながら、当たり前みたいに笑ったその顔を今でも覚えてる。

右腕には小さな切り傷があって、血が滲んでいた。



『朔、怪我してる…!』

「これくらい平気だよ。…それよりもくーちゃんがいなくなる方が怖かった」

『……じゃあ、次は私の番。…朔が困った時…は、絶対、私が助けるからね…!』

「……約束だよ?」

『うん、約束っ!』



2人で指を絡めて、小さく笑い合う。

朔がこの事を覚えているかは分からないけど、私にとっては大事な想い出だった──。




そして、朔と再会して、この約束を果たすことができた。




『危険って分かってても、助けたいって思っちゃうくらい、私にとって朔は大事な幼馴染だから。』



一瞬、朔の瞳が揺れた。

長い間止まっていた時間が少しずつ動き出すように。



『……だから、“ごめん”より“ありがとう”がいいな。』

「え……」



朔の目が驚いたように見開かれ、やがて少しだけ笑みを浮かべた。



「……ずるいよ」



そう言って笑った朔の顔はあの頃と同じ…子どものように無邪気で、少し泣き出しそうで。



「……ありがと、くーちゃん。」



紛れもなく私の知ってる、私の大切な幼馴染の、朔の姿だった。







──その時、背後でヒールの硬い音が床を打った。





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