【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
「…ねえ、あなた、人間よね?」
降ってきたのは、氷のように冷たくて、どこかトゲのある棘立った声。
反射的にパッと振り返ると、そこには豪華絢爛なドレスに身を包んだ数人の美しい令嬢たちが立っていた。
華やかな生地の裾が優雅に揺れ、上質な高級香水の甘い香りが鼻をくすぐる。
けれど、洗練されたお化粧を施した彼女たちの瞳に宿っていたのは──私を品定めし、見下すような軽蔑と嫉妬の色。
「どうして“赤羽様”の隣にいられるの?」
「身分を偽って入り込んだんじゃないでしょうね?」
あまりの勢いに後ずさると令嬢のひとりが一歩前へ近づいてくる。
…な、なんなのこの人達!!
「釣り合わないって分かってる?赤羽家は吸血鬼の中でも血筋の強い名家よ。ただの人間が、どうやって取り入ったの?」
肯定的な視線ばかりじゃないことくらい最初から分かっていたけど、こうして面と向かって突きつけられると心の奥がぐらりと揺れる。
学園に転校してきたばかりの頃も、似たような目を向けられた。
でも、あの時とは違う。
この人たちは“叶兎くんと同じ世界にいる”吸血鬼たち。
私とは根本から違う存在だ。
私は拳をぎゅっと握りしめ、冷たい視線から逃げずに、まっすぐに令嬢たちの瞳を見つめ返した。
『…私は、“赤羽叶兎”っていう1人の人を見てここにいるんです。釣り合う釣り合わないとか関係ない。…それに、叶兎くんが私を選んでくれたっていう事実がそれを証明してるから』
令嬢の眉がぴくりと動いた。
そう……ただの人間だからって、怖気付いて引いてあげるつもりなんて、最初からどこにもない。
私が彼女たちに文句を言われる筋合いなんて、一つもないのだから。
これも全部……いつも叶兎くんがまっすぐに愛を伝えてくれて、私を必要としてくれたから……。
胸の奥から湧き上がってくる圧倒的な勇気が、私の背中を力強く押してくれる。
「……何様のつもり?」
……うぅ、しつこいなぁ……。まだ絡んでくるの……っ?
引くどころか、ますます頭に血が上った様子の令嬢が、私に向かって手を伸ばそうとした──その時。
「いい加減にしなよ」
横で静かに様子を見ていた朔が、心底呆れたような鋭い眼差しで、令嬢たちを低く睨みつけた。
『……朔?』
「ここはそういう場所じゃない。……場をわきまえなよ」
強く言い切った声には、必死に押さえ込んだ怒気が滲んでいた。
握られた拳に力がこもる。
きっと朔も分かっている。
ここで騒ぎを起こせば、自分の立場が危うくなる。
それでも、私を庇ってくれている。
けれど、プライドを傷つけられた令嬢たちは朔の警告を完全に無視し、あざ笑うように私の腕をグッと強く掴んできた。
「赤羽様を惑わせて、利用してるんじゃないの?」
細い指先なのに、鋭く突き刺さり思わず息が詰まる。
その瞬間──
「…離せ。」