総長は、甘くて危険な吸血鬼
「でも……せっかくするなら、こっちにしてよ。」
囁きながら、叶兎くんの指先が私の顎をそっと持ち上げる。
気づいた時には唇が重なっていた。
優しくて、あたたかくて、未来を誓うようなキス。
叶兎くんの指がそっと頬をなぞった瞬間、時間が止まったみたいに何も考えられなくなった。
心臓の音だけが、自分の中でうるさく鳴っている。
彼の手が私の髪を撫で、首筋のあたりを包み込む。
そのままさらに引き寄せられて、触れていただけの唇が深く重なった。
唇がゆっくり離れて、ふたりの息が触れ合ったまま夜風に溶ける。
夜の空気は冷たいのに、顔はずっと熱くて。
『……ずるい。』
思わず口にすると、叶兎くんが少し照れたように笑う。
「おあいこ。」
その優しい笑顔が、私は大好きだ。
「……胡桃。」
『ん?』
「俺、今、世界で一番幸せかも。」
『…ふふ、私も。』
夜風がそっと吹いて、噴水の水しぶきがきらきらと舞う。
その光の中で見つめ合うだけで、胸がいっぱいになる。
私の好きな人は、甘くて危険な吸血鬼。
──私と彼の物語は、まだ始まったばかりだ。