総長は、甘くて危険な吸血鬼
『ってもうこんな時間!私も早く行かないと!』
去っていく二人の背中に一瞬視線を奪われながら、腕時計を覗く。針は八時を指していた。
さすがに転校早々遅刻はしたくない!
初日で遅刻したらみんなからの私の印象が“転校初日に遅刻してきた人”になってしまう。
問題児なんて認識は、絶対にされたくない。
慌てて下駄箱から校舎に入り、もう一度地図を広げる。
『相変わらずこの学園広すぎ…うーん、私のクラスどこ…』
「君、どうしたの?そんな大きなキャリーケース持ちながら地図なんか開いて」
声に驚き、思わず顔を上げる。
廊下の途中で立ち止まり、食い入るように校内地図を見つめていた私に、横から柔らかい声がかかった。
『あ、えっと、今日転校してきたので教室の場所が分からなくて…寮に寄る時間もなくてキャリーケース持ったまま来ちゃったんですけど』
顔を向けると、そこには明るい茶色の髪をした男子生徒がいた。
人懐っこそうに微笑むその姿に、一瞬、呼吸が止まった。
……い、イケメンだ。
整った鼻筋に、伏せると影を落とす長いまつ毛。
まるで漫画から抜け出したみたいな美青年。
「転校生…あ!もしかして朝宮胡桃ちゃん?」