総長は、甘くて危険な吸血鬼


『ってもうこんな時間!私も早く行かないと!』


去っていく二人の背中に一瞬視線を奪われながら、腕時計を覗く。針は八時を指していた。


さすがに転校早々遅刻はしたくない!

初日で遅刻したらみんなからの私の印象が“転校初日に遅刻してきた人”になってしまう。

問題児なんて認識は、絶対にされたくない。



慌てて下駄箱から校舎に入り、もう一度地図を広げる。



『相変わらずこの学園広すぎ…うーん、私のクラスどこ…』


「君、どうしたの?そんな大きなキャリーケース持ちながら地図なんか開いて」



声に驚き、思わず顔を上げる。

廊下の途中で立ち止まり、食い入るように校内地図を見つめていた私に、横から柔らかい声がかかった。



『あ、えっと、今日転校してきたので教室の場所が分からなくて…寮に寄る時間もなくてキャリーケース持ったまま来ちゃったんですけど』



顔を向けると、そこには明るい茶色の髪をした男子生徒がいた。

人懐っこそうに微笑むその姿に、一瞬、呼吸が止まった。

……い、イケメンだ。

整った鼻筋に、伏せると影を落とす長いまつ毛。
まるで漫画から抜け出したみたいな美青年。



「転校生…あ!もしかして朝宮胡桃ちゃん?」


< 6 / 405 >

この作品をシェア

pagetop