【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
叶兎くんが一段低い声で問い詰めた、その時だった。
彼の背後──樹木の陰から、スッと別の男の人影が滑り込んできた。
朝日に反射して、男の手元でキラリと金属の光が跳ねる。
っ……危ない!!
金属バットが、叶兎くんの頭上に向けて振り下ろされようとしていた。
私にできることなんて、何一つないかもしれない。
相手は不審な大人で、人数だって多い。
それでも、考えるより先に体が動いていた。
『叶兎くん後ろ!!!』
叫びながら、夢中で影から飛び出す。
男5人が一斉に叶兎くんたちの方へ気を取られたその一瞬の隙を見逃さず、瑠奈ちゃんと心音ちゃんの前に立ち塞がっていた男の脇腹へ、勢いのまま蹴りを叩き込む。
「ぐっ…!」
鈍い手応えとともに、男が苦悶の声を上げて横転した。
お父さんから教わった護身術、こんなすぐにまた役に立つ機会があるなんて。
実際に使う場面が今までなかったので意外と威力があって自分でもびっくりした。
思っていた以上にちゃんと身についていて心の中で再度お父さんに感謝を贈る。
「胡桃?!…っ!」
叶兎くんは振り返ると、後ろからバットを持って襲ってきた男をいとも容易く片手で投げ飛ばす。
「心音ちゃん瑠奈ちゃん大丈夫?!何もされてない?」
「胡桃っ!?うん、大丈夫。ありがとう…」
抱きついてきた二人の無事を確認し、胸の奥の緊張がほんの少しだけ緩んだ。
けれど、安堵の時間は一瞬で終わりを告げる。
……ジャリ。
足音が重なり、男たち全員の冷ややかな視線が一斉に私へと注がれた。
完全に目をつけられたみたいで嫌な予感が背筋を這い上がる。
『あ、えっと…………』
ちょっと、いや、だいぶまずい
じりじりと、距離を詰めてくる相手に足が竦む。
さっきまでの勇気はどこへやら、膝が小刻みに震えた。
何も考えずに出てきてしまった自分が情けない。
「お前、“朝宮胡桃”か?」