【完】総長は、甘くて危険な吸血鬼 Ⅰ
風が顔を叩きつけ、視界がわずかに揺れる。
それでも、背中に感じる叶兎くんの体温の安心感に、自然とぎゅっと力が入った。
恐る恐る振り返れば、後ろのバイクも同じスピードで追いかけてきている。
『あの人達一体…?!』
「あの見た目からして、多分BS、俺らの敵組織」
敵組織…!
でもなんでこんないきなり…
「あいつらどっから来たんだ…?そんな偶然通りかかるなんて思えない…。とにかく一気に逃げるから落ちないでね」
目の前の曲がり角で急旋回して、また次の角で、そのまた次の角でも急カーブ。
反射的に、前に座っている叶兎くんに更に強く抱きついた。
風を切る音とタイヤの摩擦音、背中越しに伝わる鼓動。
ドキドキするのは怖さだけじゃななった。
心臓の音…聞こえてたらどうしよう
…いや、後ろから抱きついてるから…絶対聞こえてる。
目の前の大きな段差をなんの躊躇もなく飛び出して急ブレーキ、
ザザザザとダイヤは大きな音を出して急停止した。
息を殺して周囲を見渡すと、追ってきたあの不気味なバイクたちの爆音はすっかり遠ざかっていた。
どうやら、入り組んだ路地裏を利用して完全に逃げ切れたらしい。
「はーーーー…久々に疲れた…。胡桃、大丈夫だった?」
『………』
「胡桃?」
私の返事がないことを心配したのか、叶兎くんが覗き込んできた。
だけど次の瞬間、私の口からこぼれ出たのは。
『…ふふ、あははっ、何今の、叶兎くん運転うますぎ!』
こんな時に笑ってるなんて自分でもおかしいと思う。
でもなんだか、初めてのことだらけで、楽しかったのかもしれない。
「……はぁ。怪我がなくて本当によかった……」
私の笑い声を聞いて脱力したように、叶兎くんが背中越しに安堵の呟きを漏らした。
叶兎くんは、私の知らない世界をたくさん知っている。
こうして彼と一緒にいるだけで、自分が今まで見ていた狭い世界が嘘みたいに広がっていくような、不思議な高揚感に包まれていた。
その時。
「叶兎さん!!」
後方から叶兎くんを呼ぶ声が響いた。