私を、甘えさせてください
「まだ8時半か・・・・夜遅いってほどでもないけど、美月どうしたい?」

「んー、空川さんは?」

「俺? そうだな。この辺を美月と散歩したい」


そう言うと、私の手をぎゅっと握って歩き始めた。


「小さい手だなー」

「そう?」

「俺にとってはね」

「あの・・空川さん」

「ん?」

「私も・・・・私も、空川さんにとって特別な女性になれるかな・・」


立ち止まって、空川さんが私を見つめる。


「ちょっと確認していい? いま『私も』って言ったよね?」

「うん、言った」

「それって・・・・」

「空川さんが『美月にとって特別な男になりたい』って言ってくれたみたいに、私も、空川さんにとって特別な女性でいたいって思った」

「たった3日で決めていいのか?」


真面目な顔で言う空川さんを見て、私は思わずクスクスと笑った。


「そんなこと言ったら、空川さんだって2日たたずに決めてたじゃない」

「そういえば・・アハハ」


またゆっくりと歩き出し、景色を見たり、ショーウィンドウを見たりした。


「いいもんだなー」

「え、何が?」

「ただこうやって、ふたりで歩くの」

「・・どういうこと?」

「いつだって求められてばかりで、それに応えるのに疲れて、特定の誰かと過ごすのは正直苦痛だったから」

「・・そっか」

「昨日の蕎麦も、今日のハンバーグも、キッチンで作ってる美月を見てるだけで、なんていうか、胸がいっぱいになった」

「また・・作るね」


そっとのぞいた空川さんの横顔が、なんだかとても嬉しそうだったのが心に残った。


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