私を、甘えさせてください
椅子に座ったままの空川さんの横に立って、両頬に手を添える。


「美月・・?」


熱のせいで潤んだ目。
崩れた髪型。
少し伸びた髭。


普段見せることのない、隙だらけの素の状態。


そして何より、触れるのを我慢しているという抑圧された状況が作り出す、滲み出る感情に。


なんだか、うっとりとした。

抱かれたい、この人に。

心も身体も反応する。


「み・・づき、ダメ・・だって」


唇で唇をふさぎ、その隙間を割って舌を入れる。


そこにあったもうひとつの舌から、必死の抵抗を感じ取った。


誘うように、ゆっくりと舌を動かす。


「んっ・・・・みづ・・き・・」


私の動きは、空川さんの身体から力を奪い、更に理性も奪った。


「・・もう、止められない・・よ」


理性を手放した女と男。


重なる肌と、混じり合う吐息。


指が動き、唇が触れ、舌が這う。


飛び交う声は、どこまでも甘い。


その先に続く粘膜の絡み合いは、それまでのどの時よりも濃厚で、何度もふたりを昂らせた。


「美月・・」


名前を呼ばれるだけで、身体が疼く。


「・・拓真」


私は初めて彼を名前で呼び、首や背中に回す手に力を込めた。


溶け合うほど、お互いを貪った。

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