私を、甘えさせてください
私はふたり分のお茶を入れ、自分の分を飲みながら、ぼんやりと外をながめる。


空川さんは、井川と何を話したんだろう。

空川さんは、私が井川から何を聞いたか、知っているのかな・・。

そして私が空川さんの家で、何を見て・・何を聞いてしまったのか・・。

それは、絶対に気づかないよね・・・・。


一晩中、誰の目も気にせず大泣きしたことで、ずいぶんと気持ちが穏やかになった。

重苦しくて、どうしようもなくて、押し潰されそうな感覚も、だいぶ楽になった。


「ごちそうさま。本当に美味かったよ」


その声で、空川さんに視線を戻した。


「え、全部食べたの? お腹、大丈夫?」

「大丈夫だよ。また・・」


何か言いかけて、途中でやめてしまった。

また『作って』とか、また『食べたい』と、言うつもりだったんだろうか。

次は、無いということかな。


「美月、俺、帰るよ」

「え、今すぐ? まだ熱があるのに・・」

「タクシー呼んで帰るよ。
もう微熱だと思うし、食事もさせてもらったから、帰って寝るだけで済む」

「そうだけど・・」


「これ以上・・・・。これ以上ここにいたら、帰れなくなりそうなんだ。
いま・・必死に我慢してる」


「え? 何を?」


「あいつに言われたんだ。嘘をつくような男は、美月に触れる資格なんて無い・・って」


触れるのを我慢していると聞いて、ふと、自分の中に、普段感じない気持ちが湧いてきたことに気付いた。


狂わせたい・・。


私は、甘美な感情の赴くまま空川さんに手を伸ばした。

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