一面の落とし穴
第二章 正義も悪もない

彼女の過去④

それから何人かの同僚や先輩が僕に話をしてくれた。

形は人それぞれだったが、多かれ少なかれ彼らにも黒い影がついていた。

それでも最初に話してくれた先輩の体験は想像を絶するものだった。

「黒い影に対抗したところで現状は悪くなる一方よ。ひとまず休んだ方がいいわ」

最初は断った。

僕には仕事へのプライドがあったし、なんとかやっていけると思っていた。

しかし、その日の彼女はいつもと違って真剣な表情だった。

「あなたはこれ以上自分を苦しめてどうするつもりなの?やれるだけのことはやってきたのだから」

僕は彼女のその言葉で仕事をしばらく休むことにした。


仕事を休んだからと言って治るわけではなかったが、あのまま仕事を続けていたら、彼女が僕を止めなかったらどうなっていたのだろうと思う。

休んでいる間はできるだけ体を動かした。

ウォーキングをしたりジムに通ったりもした。

頭の中をできるだけ空っぽにしたかった。

黒い影の存在を忘れたかった。

もちろん彼らは突如としてやってくる。

感情が揺れ動いた時や何か考えごとをしている時に気がつくと銃口が突きつけられていた。


時折彼女から連絡がきた。

調子はどう?ご飯は食べてる?

僕は現状を出来る限りありのまま話した。

今僕のことを唯一理解してくれているのは彼女であり、僕にとって彼女は大切な先輩でもあった。

彼女は結婚して子供もいる。

仕事や家事で忙しい中、時間を作っては気にかけてくれた。

ましてや適度な間を空けて連絡をしてくれた。

過去の辛い経験や黒い影との向き合い方を親身になって話してくれた。

やはり彼女も黒い影にはかなり苦しめられたのだろう。

普通なら人に理解してもらえないような話や赤裸々な話までもしてくれた。
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