くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 白昼夢の邂逅からほどなくして、電車は実家の最寄り駅に到着した。
 改札口から駅の外へ出て、久しぶりに地元の商店街を歩き住宅が立ち並ぶ静かな通りへ出る。
 一般的な二階建て住宅の実家へと着いた理子は、玄関引き戸を勢いよく開いた。

「ただいまー」

 バタバタ足音を立てて奥からやって来た父親は、久しぶりに帰ってきた理子を笑顔で出迎える。

「おう、おかえりーぃ?」

 靴を脱いで玄関から上がろうとする理子の顔をまじまじ見て、父親は首を傾げた。

「いや、うーん、理子、だよな?」

「うーん、あれ?」と呟き、父親は困惑しながら何度も首を傾げる。

「……半年も会わないでいると、成長期でなくとも娘って変わるんだなぁ」
「そりゃ、亜子お姉ちゃんも詐欺レベルで変わったじゃん」

 父親と喧嘩したと家へ押し掛けて来た姉の姿は、ここまで変わったら詐欺じゃないのかと思ったものだ。

「亜子のはいじくりまくって、土台から詐欺なんだよ」

 溜め息混じりの父親の言葉に、理子の目は点になってしまった。
 土台からってことは、うん、そういうことか。

 白髪が増えて若干後退した髪が、父親の気苦労を表明している気がした。


「お父さん私、結婚することになったの」
「ぶふっ!?」

 ダイニングテーブルに向かい合わせで座る父親は、理子の告白に激しく驚き口に含んでいたビールを吹き出しかけて、げほごほと激しく噎せた。

「退職はともかく、けっ、結婚!?」

 噎せたせいで、父親の目にはうっすらと涙が浮かぶ。

「相手は!? い、いつ、いつ結婚するつもりだ?」

 勢い良く父親が椅子から立ち上がり、刺身が乗った皿と醤油を入れた小皿がガチャンと揺れる。

「結婚式はまだ決めていない、彼の都合によるのかな?彼、実は外人さんなんだよ。ヨーロッパの所謂、貴族の家系の人で彼の妻になるためには教育を受けなきゃならないんだって。だから、退職したら一緒に暮らすつもり」
「外人に、お貴族様に、同棲もかよ。うちの娘達は、どうして俺に心配ばかりさせるんだ……」

 ぶつぶつ呟いて、父親は両手で頭を抱えてしまった。

「はい、この人が未来の旦那様だよ」 

 携帯電話に保存してある、シルヴァリスの写真を表示して父親に見せる。
 携帯電話を片手で持った父親は「ほー」と感嘆の声を上げた。

「これは……また、凄いのを捕まえたな。貴族って玉の輿か? 理子がいきなり嫁に行くとか、父さん頭がついていかないや。しかも、この銀髪兄ちゃんが義理の息子……いやー母さんと亜子が居なくて良かった」
「お父さん、未来の旦那様が衝撃的だったのは分かるよ。泣かないで」

 泣きながら笑う父親に、慌てて理子は立ち上がりそっと手のひらを握った。

(常識人である(と思う)父親でさえこんな様子だから、母親と姉が知ったら大騒ぎだったな)

 少々ずれた感性を持つ母親と姉が不在で良かったと理子は心底思ったのだった。

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