くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
似たような扉が両脇に並ぶ廊下を歩いて、理子とエミリアは部屋を探す。
軋む廊下の音が、静かな廊下に響いて聞こえる。
「リコの部屋はここよ」
鍵に付けられた部屋番号と、扉に取り付けられたプレートが一致する部屋までやって来ると、番号を確認したエミリアは理子に鍵を手渡す。
「私の部屋は二部屋向こうよ。何か困ったら訪ねて来なさい」
「うん、ありがとう」
腰に手を当てて胸を張って言う少女が可愛くてついデレッとなる。
可愛い。これがツンデレ属性か。
最近は姉曰く、ヤンデレ属性の魔族とばかり居たから、多少の生意気な態度も可愛らしく感じる。
ベッドと簡素な椅子しか置かれていない部屋に入り、理子はフゥと息を吐いた。
色々あった、長く濃い一日だった。
魔国のお城から庶民の宿屋とか落差は激しいが、漸く一人になれて全身の力がやっと抜けた気がする。
「ウォルトさんにエミリアさん、かぁ。冒険者って響き、まさしくファンタジーだなぁ」
一度は夢見た剣と魔法のファンタジーな世界。
衣料品店の店主から貰った、この町近郊の観光マップをベッドの上に広げる。
明日は何処に行こうかと理子は、口元を緩ませるのであった。
***
食堂の奥、宿屋の主人に交渉して借りた使われていない保存庫の一角。
滅多に人は入って来ないが、念のためにと防音の魔法を施した室内は、中央に置かれたテーブルの上で魔法の明かりが辺りを照らす。
テーブルを中心にして椅子に腰掛けるのは、淡い金髪の端正な顔立ちの青年と腕組みをするウォルト。
ツインテールを揺らして胸を仰け反らせたエミリアは、ウォルトをキッと睨み付けた。
「ウォルト、あんたってやっぱり脳筋なのね」
「ああ?」
脳筋と言われたウォルトの眼光が鋭くなるが、エミリアは怯まない。
「あの子を見て何も気付かないなんて。まぁ、ウォルトの魔力量なら仕方ないか」
やれやれ、とエミリアは横を向いた。
武術のみ、剣の腕ばかり鍛えて魔法の勉強はおろか、生まれもった魔力を高めることもしてこなかった男に期待しても仕方がない。
「そんなに面倒そうな娘なのか?」
紙の束に目を通していた金髪の青年が顔を上げる。
青年の問いに、エミリアは眉を寄せて頷いた。
「面倒も何も、あの子は魔族の加護が付いてるわ。それもとびきり高位の魔族。加護っていうか、所有印を付けられている上に……あれは、多分、魔力まで与えられてると思う。彼女に何かあったら、高位魔族が出てくる危険があるわ」
先ほど偶然を装って理子の肩に触れてみて、弾かれた指先を見てエミリアは嫌そうに顔を歪めた。
アレは魔族の加護なんてものじゃない。彼女の肉体だけでなく魂にまで絡み付いている、強力な呪詛だ。
あれだけの魔力を与えられているのに、精神が歪んで発狂していないのが不思議でならない。
「ウォルトがリコを助けなかったら、今頃この町は火の海だったかもね。だからと言って、此処に連れてくるのは止めて欲しかった」
「……悪い」
かなり危ない状況だったと理解したウォルトは、素直に謝罪を口にする。
口元に人差し指を当てて何やら考えていた金髪の青年が「もしや」と呟いた。
「エミリア。それは、今回の依頼に関係ありそうか?」
「さあ、分からないわ。でも、」
エミリアの指が、金髪の青年がテーブルの上に広げた紙を突つく。
「リコは明日、例の遺跡を観光しに行くって。どうする?」
「……その娘に会ってみて決めるか」
暫く思案した金髪の青年は、椅子から立ち上がり、壁際へ歩いていった。
半地下となっている保存庫の通風口から食堂の様子を伺う。
通風口から僅かに見えた先には、食堂のテーブル席に座り、幸せそうに夕食を頬張る理子の姿があった。
軋む廊下の音が、静かな廊下に響いて聞こえる。
「リコの部屋はここよ」
鍵に付けられた部屋番号と、扉に取り付けられたプレートが一致する部屋までやって来ると、番号を確認したエミリアは理子に鍵を手渡す。
「私の部屋は二部屋向こうよ。何か困ったら訪ねて来なさい」
「うん、ありがとう」
腰に手を当てて胸を張って言う少女が可愛くてついデレッとなる。
可愛い。これがツンデレ属性か。
最近は姉曰く、ヤンデレ属性の魔族とばかり居たから、多少の生意気な態度も可愛らしく感じる。
ベッドと簡素な椅子しか置かれていない部屋に入り、理子はフゥと息を吐いた。
色々あった、長く濃い一日だった。
魔国のお城から庶民の宿屋とか落差は激しいが、漸く一人になれて全身の力がやっと抜けた気がする。
「ウォルトさんにエミリアさん、かぁ。冒険者って響き、まさしくファンタジーだなぁ」
一度は夢見た剣と魔法のファンタジーな世界。
衣料品店の店主から貰った、この町近郊の観光マップをベッドの上に広げる。
明日は何処に行こうかと理子は、口元を緩ませるのであった。
***
食堂の奥、宿屋の主人に交渉して借りた使われていない保存庫の一角。
滅多に人は入って来ないが、念のためにと防音の魔法を施した室内は、中央に置かれたテーブルの上で魔法の明かりが辺りを照らす。
テーブルを中心にして椅子に腰掛けるのは、淡い金髪の端正な顔立ちの青年と腕組みをするウォルト。
ツインテールを揺らして胸を仰け反らせたエミリアは、ウォルトをキッと睨み付けた。
「ウォルト、あんたってやっぱり脳筋なのね」
「ああ?」
脳筋と言われたウォルトの眼光が鋭くなるが、エミリアは怯まない。
「あの子を見て何も気付かないなんて。まぁ、ウォルトの魔力量なら仕方ないか」
やれやれ、とエミリアは横を向いた。
武術のみ、剣の腕ばかり鍛えて魔法の勉強はおろか、生まれもった魔力を高めることもしてこなかった男に期待しても仕方がない。
「そんなに面倒そうな娘なのか?」
紙の束に目を通していた金髪の青年が顔を上げる。
青年の問いに、エミリアは眉を寄せて頷いた。
「面倒も何も、あの子は魔族の加護が付いてるわ。それもとびきり高位の魔族。加護っていうか、所有印を付けられている上に……あれは、多分、魔力まで与えられてると思う。彼女に何かあったら、高位魔族が出てくる危険があるわ」
先ほど偶然を装って理子の肩に触れてみて、弾かれた指先を見てエミリアは嫌そうに顔を歪めた。
アレは魔族の加護なんてものじゃない。彼女の肉体だけでなく魂にまで絡み付いている、強力な呪詛だ。
あれだけの魔力を与えられているのに、精神が歪んで発狂していないのが不思議でならない。
「ウォルトがリコを助けなかったら、今頃この町は火の海だったかもね。だからと言って、此処に連れてくるのは止めて欲しかった」
「……悪い」
かなり危ない状況だったと理解したウォルトは、素直に謝罪を口にする。
口元に人差し指を当てて何やら考えていた金髪の青年が「もしや」と呟いた。
「エミリア。それは、今回の依頼に関係ありそうか?」
「さあ、分からないわ。でも、」
エミリアの指が、金髪の青年がテーブルの上に広げた紙を突つく。
「リコは明日、例の遺跡を観光しに行くって。どうする?」
「……その娘に会ってみて決めるか」
暫く思案した金髪の青年は、椅子から立ち上がり、壁際へ歩いていった。
半地下となっている保存庫の通風口から食堂の様子を伺う。
通風口から僅かに見えた先には、食堂のテーブル席に座り、幸せそうに夕食を頬張る理子の姿があった。