極上の愛に囚われて

 スマホを持つ手がぶるぶる震えている。

 私と会っていることが彼の家にばれたとか!? それか、奥さんにばれて……?

『大切な話』とは……もしかしたら、翔さんのほうから別れを告げてくるのかもしれない。 

 いつかは別れがくると覚悟をしていたけれど、こんなに早いなんて……。

 彼が既婚者だと知った時に流した涙は一生分だったのか、切なくても哀しくても一滴の涙も流れない。じわっと視界が霞む程度だ。

 普通の恋人同士だって、突然に別れを告げられることがあるのに、私は不倫なのだ。道ならぬ恋を、おばあちゃんになるまで続けられるはずがない。

 別れを告げられるのなら、思い出に一度だけ抱いてもらおう。私が小栗翔を思い続けたことを、彼の心の中にずっととどめてもらえるように、刻み込むのだ。

 これが私の唯一の仕返しであり、こんな私を好きになってくれた彼への感謝だ。

「四時か……。それまで体を磨いておこうかな」

 最後にとびきり綺麗な私を見てもらうために。
 

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