極上の愛に囚われて
分かる……その気持ち、すごく理解できる。あんなに素敵な人に声をかけられて、優しくされたら誰でもそんな気持ちになる。
けれど……。
「彼は既婚者だよ。狙おうと思っちゃいけないなぁ」
いつから傍にいたのか、社長の登場だ。
「えぇぇぇ、そうなんですか? あんなに、取り巻き凄いのに?」
「奥さんは公の場に出てこないから、まあ、知らない人も多いんだろうね」
社長の言う通り、このパーティにも小栗さんの奥さんは来ていないみたいだ。
「でも、小栗さんはちゃんと断ってる筈だ。さあ、不毛な恋よりも実益を求めようか。頑張って営業してきて」
「はぁ~い」
安奈が気だるそうに返事をするから、思わず笑ってしまった。アットホームな社風だからこそ、社長に対しても正直に不満を表せるのだ。
「さっさと行く」
ぱんぱんと手を叩く仕草をして、私たちを追い立てる。
社長に急き立てられた私たちは、合間に食事をとりつつも、自社の名前を広める努力をしたのだった。