石を喰む人魚の歌
「五の姫の歌、好き」
「それならこの石をたべればいいじゃない」
「でも私は甘いのがいいの。甘い、甘い恋の歌をうたいたい」

 妹はそう言うと尾びれを動かし泳ぎだした。気が付くと他の姉たちも廃墟を泳ぎ回り、遊んでいる。私も仕方ないと妹への説教を止めて、その遊びの輪に加わった。

「ねえ、向こうに立派な船が航海してるって」
「行ってみましょうよ」
「ちょっと危険だわ」
「六の姫は待っていた方が良いかしら。五の姫も一緒に居てあげてちょうだい」

 偵察に行った姉たちの帰りを、妹と二人で待つ。程なくして戻ってきた彼女たちの表情は、興奮して輝いていた。

「船首に人が立っていたわ」
「立派な着物。王子様みたい」
「もうちょっと近寄ってみる?」
「それじゃあ、みんなで行きましょう」

 姉たちの提案に、私は慌てて首を振る。

「六の姫がいるから駄目よ。まだ海上に出てはいけないのだもの」
「あら、今日はこの子の十五歳の誕生日よ。今日から海上に出られるじゃない」
「それは今夜からだわ。今は昼よ」
「みんながいるから、今こっそり行っても大丈夫じゃない?」

 なんてことのないように姉たちがそそのかす。

「でも……」
「五の姫、私も姉さまたちと行ってみたい。夜に一人で行く前に、みんなと海上へ出る練習してみたいの」

 私の手を握り、妹がそう懇願する。結局私も好奇心を抑えきれず、姉妹揃って岩場へと向かった。

 岩陰に身を隠し、船の様子をうかがう。ぎりぎり通れるだけの水深があるところを縫うように進んでいく船。そしてその船首に立ち、陸地を見つめる男の人。まだ若い彼はその姿勢や所作の美しさ、着ている服の華美なことから高貴な身分であることが見て取れる。

「素敵な人」

 思わずといった様子でつぶやいた声が、すぐ横から聞こえた。

「六の姫……?」

 その瞬間から六の姫の目には彼しか見えず、誰の忠告も耳には入らず、心は彼に占領されたようだった。空はそんな彼女の運命を暗示するように厚い雲に覆われてゆき、次第に風が強くなっていく。

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