溺れる遺伝子
「もうすぐ時間だぞ」


意識が戻るとそこはまだホテルだった。

ツバサは裸で横たわるヒナに背を向けてワイシャツのボタンをとめている。

ヒナも慌てて服を着ようとしたが、体が妙な汗をかいていて気持ちが悪い。

慌ててシャワールームに飛び込んだがツバサはそんなヒナをただ黙って見ているだけだった。



ホテルを出るともう日が落ちかかかっていた。

夕焼けが二人の顔を橙色に照らしている。

街のイルミネーションがぽつりぽつりと灯りはじめた。

そのなかを二人は手も繋がずに歩いていく。


じわぁ~ん、じわぁ~ん

さっきから波のような痛みが押し寄せてくる。

本当はツバサにいたわって欲しいのに、なぜかツバサに声をかけることすらできない。


ツバサの妙に冷たい態度がヒナを不安にさせていた。
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