溺れる遺伝子

加速

タバコの煙りが空へ吸い込まれていく。
空は青く澄んでいるのにヒナは空虚であった。


「なかなかサマになってきたじゃん」

隣でタバコをふかしていた先輩が口元だけで笑った。

ここは誰も知らない秘密の校舎の屋上。ここが私たちのたまり場だ。


「もう一年になるんスね」

ヒナはつぶやいた。
春の甘い風が少し伸びたヒナの髪をなでる。


先輩から譲りうけた黒のスカーフ。


これをセーラー服に通せば普段は生徒を校則で縛り付け、内申書という武器で脅し、その上で踏ん反り返っている教師さえ黙るのだ。


新しいクラスには俗にいう「不良集団」の仲間はいなかった。
するとヒナは自然と孤独になった。


窓際の1番後ろの席。

…ハブられてるんじゃない。
恐れられているのだ。
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