策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「卯波先生にとって、まさに獣医師は天職ですね」

「心配するな、疲れていない。気を遣ってくれて、ありがとう」
 そうだった、私の心はお見通しなんだった。

「レクのとき。直後に俺が言った言葉は、旅立つときにレクが遺して逝った言葉だ」

 レクの気持ちは、卯波先生が代わりに伝えてくれて旅立っていったんだね。

 レクは一生懸命に、がんばって生きたんだよね。

「レクは、理不尽な落ち方(死に方)だったから、悔しくて悔しくて仕方がなかったです。卯波先生の言葉で安心していました」

 そうは言っても、しっかりと心を切り替えられるのは、正直言って仕事中だけだった。

「卯波先生の今の言葉で、やっと心の底から救われました」

「ありがとう。生きてきた中で、ときにはエンパスに苦しめられ憎くなることすらあった。桃の言葉に救われた」

 私の存在価値を、今感じられた。私こそ、ありがとう。

「ようやく、長年の呪縛から解放された」
 目尻に、微かな笑みを浮かべる卯波先生。

 もう、心の底には(よど)みがないみたいに、晴れやかな表情になってくれてよかった。

「ごめん、桃の話を取ってしまった。つい嬉しくて失礼、レクの話だったな」

「いいえ、どうか謝らないでください」
 聞き上手で、いつも話をじっと聞いてくれる卯波先生らしい心遣い。

 レクのことは。

 レクの死を乗り越えたと自分を偽り、騙しだましきた。

 でも、やっぱり心の底では、レクの無念の死を、そう簡単には受け入れることができていなかった。

「レクは、愛情をたっぷり注がれて幸せな人生だった」
「レクは安らかに眠ってますね」

「ああ、だから、俺は心穏やかにいられるんだ。その瞳は、いつも愛しそうに誰を見つめている? レクの心は一目瞭然だろう?」

「卯波先生」
 安心した、すこやかな顔で私を見つめているから。
 
 花々に視線を移して、レクに手を合わせていると、卯波先生の声が聞こえてきた。

「命は尽き果て、肉体は消える。でも心の中では、ずっと生きつづけていることを、動物の死に立ち合うたびに実感する」

 胸の前で手を合わせる私の心の中が、すっと軽くなっていく。
 レクは私の心の中にいる。

「だから、レクにはいつでも会える」
「いつでも会いたいときは、心の中に」
 心の重さがなくなり、心穏やかになったと思えた。

「獣医師は、天職の話だったよな。人や動物のサポートをしたいから、獣医師が合っている」

 世話好きですもんね。口うるさくて心配性で、私のこともあれこれと。

「小さな良心、大きな小言か?」
「そうじゃなくて」
 心は筒抜け、読まれっぱなし。

「子守り」
「今、ボソっと、なんておっしゃいました?」
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