策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
 雑誌の発売日みたいにカルテの棚には、次々とカルテが山積みに並べられていく。

「戸和先生、次の子はパンダのテオくん」
 診察室に行こうと手招きをした。
「ラゴムの院長はパンダまで診るのか!?」
 私の横にぴったりとくっつく戸和先生が近すぎて、圧がすごくて暑苦しい。

「猫の模様です、テオは白黒模様なんです」
「だからパンダか」
 本気で驚いたのか、パンダを診る動物病院なんかあるわけない。

 今度は、ちゃんと私が見える高さまでカルテを下げてくれたから、二人で見ながらテオの説明をした。

「テオの性格きついですから油断しないように」
「メモすごいこと書いてあるね、ラゴムは百獣の王まで診るのか」
 軽く肘でつついてきて笑った。

 あながち戸和先生の言葉は間違いじゃない。冗談じゃなく、テオは猛獣のよう。

「テオは、尿石症で定期的な尿検で来院です」
「膀胱内結石か、食餌療法で溶けたの?」
「そうです。問診のあいだ、いっしょにいます?」

「うん、そのまま診察。百獣の王に食べられないように気をつけなくちゃね」

 ウインクをする顔は、かわいい笑顔を浮かべた。

 オーナーを呼び入れ、体重と体温を測定してテオの様子を聞いていく。

 戸和先生ったら、躊躇することなくテオに触れているけれど怖くないのかな。

「ロァロァ、テオ強いね、You are strong」
 口と肩をすぼめておどける戸和先生にオーナーは苦笑いを浮かべ、申し訳なさそう。

 まるで、猛獣が低く力強く吠えているみたい。
 それか、強風の轟音の合間にギャーオって雄叫びを上げる感じか。
 
「ウッフ、ウッフ、テオ唸る? 唸るいらないよ」

 ウーウー低い唸り声を上げているテオに、臆することなく淡々と診察している。
 獣医になるだけあって神経が図太いな。

 赤ちゃんをあやすように、騙しだましテオをなだめて、採尿をして尿検を済ませた。

「テオ、Good boy! ロァロァないね」
 ララってなんだろう。戸和先生が撫でていたら、テオがおとなしくなった。

「テオ、パーね」
「うちの子がパーとは?」
 オーナーの笑顔が一変、険しい顔つきになり、思わず私も眉間に力が入る。

「怒らないで。ゴロゴロ、喉ゴロゴロ、英語ではパーと言います」 

 正確な言葉を探し求めながら、ゆっくりと話す戸和先生の穏やかな笑顔に、オーナーと私も頬が緩んだ。

 テオがぐるぐる喉を鳴らして、戸和先生の手のひらに擦り寄っている。
 信じられない。どちらからともなく、オーナーと目と目が合った。

 診察が終わり、消毒を済ませて処方箋を調剤しながら、気になることを聞いてみた。
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