策略家がメロメロ甘々にしたのは強引クールなイケメン獣医師
「どうやって気性が荒いテオを手懐けたんですか?」
「今まで僕の患畜には愛玩動物いなかっただから、丁寧に接した」
「それだけ?」
 私の驚きに口をすぼめた戸和先生が、こくりと頷く。

「どんな猛獣使いかと思ったら、基本中の基本か」
「ロァロァ」
 上機嫌の戸和先生の鼻歌で思い出した!

「それ、そのララってなんですか?」
「ガォ、ライオンのガォ」
「ライオンの雄叫びは、英語だと巻き舌っぽく聞こえるのかな」

 処方箋の調剤が済み、受付の坂さんに渡した。

「あっ! 教えなくちゃいけないのに、ぜんぶやっちゃった」
「大丈夫、見て覚えた」
「え、凄くない?」
「次の診察、たまってるよ」
 
 背後に人の熱気を感じ、頭上から長い腕が伸びて来て診察室の扉が開かれた。
 戸和先生の圧が凄い。

「どうぞ入って」
 カルテを片手にレディファーストで、戸和先生が腰に軽く触れてきた。

「だから、それダメだって! やめてよ!」
「桃、気持ちいいね」

「院長、もう戸和先生勘弁してよ。ひとりでなんでもできるから、私から離してよ」
 天を仰ぐような独り言が出てくる。

「あともうひとつ質問が、あ、しつ」
「答えたらハグしていい?」
 人の言葉を遮らないでよ。
「笑ってないで真面目に答えて! それとハグなんかダメに決まってるでしょ!!」

「じゃあ、桃に質問ね。猫どうしてライオンみたいにガォって吠えない?」

 たしかにニャアとかミャアだ。

「今日中に答えられなかったらハグね。ズルしたらダメ」
「ズルって?」
 携帯を触るジェスチャーをしてみせる。

「はい、スタート」
「なんで勝手に」
「始まったよ、考えて」
「私、仕事中です!」
「僕は恋愛中」
「誰に?」
「桃に」
 会って何時間よ、ふざけないでよ。

 卯波先生、オンにしている? 戸和先生のは冗談よ。だから気にする価値なし、放っておきましょう。

 カリカリしないでね。私の清い心だけを感じてね、私には卯波先生だけ。

 なんで私がこんな質問に答えなきゃいけないの? 絶対に答えないから!
 そしたらハグ? 冗談じゃないわよ、戸和先生のペースにはまるもんですか!

 診察が終わり、通りがかりの院長をつかまえた。

「もう戸和先生ひとりでなんでもできますよ。お世話は必要ないです」

「さすが飲み込みが早いな。昼休みに入院室も見回っていたし、ひとりで大丈夫そうだな」
「はい」
 安心した。

「ちょっと質問いいですか」
「なんだよ、まともな質問しろよ?」
「なんで、猫はライオンみたいにガォって吠えないんですか?」

 怪訝そうな表情を浮かべる院長が引き気味に見てくる。

「猫だから」
 そんな答えある? もういい、わかった。
「外来が落ち着きましたから、入院患畜の世話に回ります」
 入院室に行って、固定電話から卯波先生に電話をかけた。
< 202 / 221 >

この作品をシェア

pagetop