迷彩服の恋人 【完全版】
「何食べます?」

「土岐さん、何食べたいですか?俺、和食が良いんですけど…。」

「俺は何でも食べますよ。3人に合わせますんで決めてもらって…。」

中崎と麻生さんに聞かれ、俺はサラッと返す。

こうは言うが、俺が優柔不断なわけじゃなくて…この3人が一般的な朝食で出されるようなパンの大きさや個数で足りるわけがないと知っているからこその助言だ。

「パンだと足りない気がするのって、俺だけですか?」

「分かります。俺たちも米食いたくなります!」

麻生さんの言葉に同意するように、勢いよく答えた古川と中崎。
そして、麻生さんが「なんか良い店知りません?土岐さん」と俺に話を振ってきたので、以前志貴さんと行った新宿区内の定食屋に連れて行った。

**

「いらっしゃい…あら、土岐さん…だったかしら。」

「こんにちは。はい、土岐です。先日に引き続き、今日も美味しいご飯を頂きに来ました。」

俺がそう言うと、定食屋〔日笠屋(ひかさや)〕のおばさんがニッコリ笑う。

〔日笠屋〕という店名は、〝晴れの日でも雨の日でも、来てくれるお客さんの憩いの場になれば嬉しいから〟という気持ちを込めて名付けられたのだと、前回来た時に聞いた。

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。…ここのテーブル席どうぞ。」

「ありがとうございます。」

案内された席に腰掛けながら、全員が口々にお礼を言った。

「今日はねぇ、〝雑炊セット〟と〝お茶漬けセット〟と〝お魚セット〟と〝煮物セット〟をご用意してますよ。今日のお味噌汁は大根とわかめと油揚げ。でも、豚汁にも変更できます。それと、ご飯はプラス100円で1杯おかわりできますし、プラス200円で大盛りにもできます。…それじゃあ、注文決まったら呼んで下さいね。」

「追加料金払えば、飯おかわりできるんですね。これはデカイ!」

「そうなんですよ。まぁ、だから連れてきたんですけどね。俺も、『たまたま入って食ったら美味かったから』って志貴先輩に連れてきてもらうまで全然知らなかったんですけど。」

そんな話をしつつ、注文をしていると…おばさんが(いき)な提案をしてくれる。

「ごめんね、さっき聞きそびれたんだけど…皆さん、志貴さんと土岐さんみたいに仕事仲間なのかしら?…確か、自衛官って言ってたわよね。」

「はい。今日来た者は、僕も含めて全員志貴さんの後輩に当たります。」

「…あら、志貴さんの後輩なのね。なら、あの人…主人の見立ては正解ね。『土岐くんが連れて来たんだから、志貴くんとも関係あるかもしれん…聞いてこい。』って厨房で言うもんだから。…ご飯のおかわり1杯分はオマケね。働き盛りの食べ盛りでしょう。たくさん食べんさい。」

志貴先輩と来たこの前の時も、そう言ってご馳走になったのに…何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「えぇっ!?良いんですか!?」

俺以外の3人も驚いた顔をしていた。

結局、「いえいえ、申し訳ないですよ」とか「いいのよ。サービスさせて」とか言って、数回の押し問答をした後…最終的には俺たちが折れる形になった。
それで、おばさんは満足げに笑った後「そういえば。今日、志貴さんは?」と言葉を続けたので、「彼女さんとゆっくり過ごされてると思いますよ」と答えておいた。

そして麻生さんは〝お茶漬けセット〟を頼み、俺や中崎…そして古川は〝お魚セット〟を注文していた。さらに、古川は納豆…中崎は生卵を追加で注文して白ご飯のお供にしている。
ちなみに。お茶漬けの中身は(さけ)で、〝お魚セット〟のメインは鮭か(さば)から選べて…古川と中崎は鮭の塩焼きにしてもらい、俺は鯖味噌にしてもらった。
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