迷彩服の恋人 【完全版】

〝負傷の民間人女性〟 ◆真矢 side◆


6月中旬の日曜日――。

1週間ほど前に梅雨入りが発表された東京だが、今日は"梅雨のあいだの晴れ間"のようで…青空と赤みがかった雲が綺麗な空模様だ。

今日は愛車の[ランドクルーザー]のメンテナンスも兼ねて、友人に会いに行っていた。
俺の最初の職場だった、〔ハルヒノ自動車〕の子会社である〔ハルヒノ自動車整備工場〕の整備士仲間だ。
家のスペースを借り、他愛もない話をしながら2人して愛車の手入れに(いそ)しんだ。

――そして今は…現在の職場である〔世田谷駐屯地(ちゅうとんち)〕内の寮に帰る途中だ。

…ん? 〝あの女性(ひと)〟…大丈夫か?転ばないか?

信号待ちをしながら、何気に歩道の方に目を向けると、十数メートル先に〝程よく着飾った女性〟が急いでいるような…そうでもないような雰囲気で歩いていくのが見える。

もうすぐ信号も変わるし、別に気に留めることもないような"通りすがりの出来事"なのだが…なぜか気になる。

そう思って見ていると――。

〝その人〟が転んだ。

立ち上がれるかと思って一瞬様子を見ていたが、どうも無理なようで…座り込んでいる。

状況把握と同時に、俺は窓を開け…クラクションを鳴らして、〝その人〟に「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
しかし、信号が変わったタイミングでもあったため一度ハザードランプを点滅させ、周りのドライバーへ"アクシデントが起こっている"ことを伝える。
もちろん、これだけでは伝わらないかもしれないが…あえて時々窓から少し顔を出しつつ"もう少し進んだら歩道に入りたい、あの人のところへ行きたい"と後方へサインを出した。

その甲斐あって、徐行しても特にトラブルになることもなく無事に歩道に停車させることができた。

「立ち上がれますか?」

俺は〝彼女〟の前に立ち、そう声を掛けて手を差し出してみる。

「あっ、ありがとうございます。でも…たぶん捻っちゃってて…。」

あー。捻ったのか…。まぁ、それは分かったけど――。

"見られてるな"。……警戒されてるのか?
そのあたりのことが少し気になるが、そんなことよりも手当だ。

急激に腫れてきてはいないところをみると、骨折はしていないだろうけど…どこに(つまず)いたんだ?

そんな風に思い…周りに視線を走らせると、歩道のタイルが一部欠けているのを発見した。

あー。"ココ"か…。

「えっ、本当ですか。…あっ。ここのタイルの窪みにヒールが引っかかったんですね、きっと。……捻挫かな。えっと。すぐに冷やした方が良いけど、今日に限って荷物少なくしてきたし…どうしようかな。」
< 6 / 52 >

この作品をシェア

pagetop