迷彩服の恋人 【完全版】
「いえ、私は大丈夫です。あとは自分で何とか――。」

「はい、もちろん。そのつもりです。助言をいただき感謝します。それで…。ここから一番近い【休日診療を行っている病院】をご存じありませんか?」

えぇぇっ!?嘘でしょう!? 病院連れて行かれるの!?

そこまでしてもらうわけには――と思っている間に、止める間もなく…彼は病院をリサーチしていた。

「病院、分かりましたから…行きましょう。…あっ!でも立てないのか――。先にドア開けてきますね。」

〝彼〟はそう言って、車の助手席のドアを素早く開けにいった。

「さぁ…皆さん、あとは私が引き受けますから各々の目的地へどうぞ向かって下さい。」

まだ私たちを見てる人はいるけど…彼にそう言われたことで、ほとんどの人たちはそれぞれの場所へ散っていく。

「さて…。少しお体失礼しますね。」

「きゃあ!」

体が宙に浮いた!と思ったら…背中や膝の裏に温もりを感じた。

こ、これはもしや…【お姫様抱っこ】というやつなのでは!?

〝されてみたい願望〟がすごくあったことなのに…実際にやられてみると、頭や顔から湯気が出そうなぐらい恥ずかしい。

「初対面の男に触れられるなんて…ご不快かと思いますが、僕の車までなのでご容赦を。」

彼がそんな気遣いの言葉を掛けてくれているのに…恥ずかしさで頭がいっぱいになり、それどころじゃない。
この際、周りから飛んでくる野次もどうでもよかった。

**

「体勢…つらくないですか?足に負担はかかっていませんか?」

助手席に下ろされた私に、彼が聞く。

「だ、大丈夫です。」

そう返事すると…彼は微笑み、ドアを静かに閉めた。

「忘れもの無し、準備よし。」

確認するのが癖なのかなと気になりつつ…聞くのはやめておく。
聞くほどのことでもないし、下手に聞いて変に思われたくないから。

こうして。私はなぜか、先ほど出会ったばかりの男性と病院へ向かった。
< 5 / 52 >

この作品をシェア

pagetop