迷彩服の恋人 【完全版】

あなたの名前は…。 ◇都 side◇

「うん、これは捻挫ですね。骨にも異常はありませんし、7〜10日ほど安静にしていれば大丈夫ですよ。」

車から降ろしてもらう前に〝彼〟は院内から車椅子を借りてきてくれたようで、【お姫様抱っこ】で車に乗せていただいて以降、本当に痛みを感じずに済んでいるから…とてもありがたかった。

そして、順番がきたので診察をしてもらった結果…やはり【捻挫】ということで落ち着いた。

「〝お付き添いの方〟は、ご家族の方ではないとのことでしたが…ご家族への連絡はお済みですか?」

「はい、連絡済みです。〝あの方〟には偶然助けていただいたんです。出先で転んでしまったので…。」

目の前に座る〝塩顔の男性ドクター〟 にそう答える。
見た目、30代後半から40代前半の〝爽やかイケメン〟タイプの先生だ。

「そうですか、お済みならよかったです。それから、捻挫された時…すぐに誰かが駆けつけていただけたのは幸いでしたね。皆さん、捻挫されると"痛いけど、歩けないほどじゃないし…仕事休めないから"って受診を先送りにする方が多いんですが、実はその判断が良くないんですよ。」

「そうなんですか?」

私も1人だったら、病院に来なかったかもしれない。

「はい。捻挫は損傷してすぐの処置とそこからの治療で、回復するまでの期間や再発しやすい状態になるかが変わってきますから。…さて。それでは、冷やしたりテーピングしたり、処置していきましょう。」

こうして、私は診察室から隣の処置室に移動するよう促され、そこで処置を受けた。

処置を終え、部屋を出ようとカーテンを開けてもらうと…目の前の長椅子に座る〝彼〟と目が合って微笑まれた。

「お待たせしてすみませんでした。」

「いえ、とんでもないです。処置は…終えられたんですね。捻挫でしたか?」

「はい、全治1週間~10日と言われました。」

「すぐに処置していただけてよかったですね。……ロビー、行きましょうか。」


車椅子を押してもらい、ロビーまで移動して一息ついたタイミングで〝彼〟にこう切り出される。

「ご家族の方が来られるまで、ご一緒させて下さいね。骨折していなくて良かったです。」

そういえば、まだ来ないな…。
まぁ夕食の仕込み中だろうから、出るまでに時間かかってるのかもしれない。
「どうしてこの忙しい時間に… 〝あの子〟は!」とか言いながら来そうだなぁ。

「ありがとうございます。ほんとに…。これ骨折してたら、もう一つ大変でした。…あ、あぁ。ありがとうございます。家族が来るまで一緒にいていただくなんて恐縮ですけど…。」

「いえ、そこは気にしないで下さい。僕が、あなたとご家族が合流されるところを見届けたいだけなので。……そういえば。残念でしたね、これから同窓会に行かれるところだったんでしょう?」

「そうですね。でも、実は…正直行きたくなかったので、私的には怪我の功名というか…。今回の幹事の子とは人並みには付き合いましたけど、苦手だったんです。」
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