国際弁護士はママとベビーに最愛を誓う~婚姻解消するはずが、旦那様の独占欲で囲われました~

言ってはいけないことを口にした気がする。お互いをどう思っているかを話したことはなかった。
今はなぜかどちらも嘘の気持ちを吐露し合っているが結果は変わらず、私たちは両想いではない仮面夫婦だと再確認したのだ。

流されて好きだと言ってはダメだ。形だけの両想いになったって、この生活は私には耐えられないとこれまでさんざん思い知ってきたのだ。

「じゃあ、玲菜は俺を好きになる努力をしたのか? 凌太のために」

彼のその質問は私の心を容赦なくえぐった。久嗣にだけは、〝凌太のために〟だなんて言葉を言われたくなかった。

「努力……?」

私がどんな気持ちで過ごしてきたのか知らないくせに。納得がいかず叫びだしたいくらいの気分だ。私は精いっぱいがんばってきた。努力なんてしなくても久嗣を好きだったから、ずっと待っていた。

「……玲菜?」

涙がこぼれ落ちた。久嗣が目を見開き、私の顔を覗き込んでくる。
頬に触れようとしてきた彼の手を、顔を逸らして拒否をした。

「凌太が起きたら、帰ろう」

今言える言葉を必死で絞りだし、まだ食べかけの取り皿の中身を残り物のタッパーに移して蓋をする。もうなんの味もしない。お弁当を食べる気分ではなくなった。
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