暗い暗い海の底
 他の人のいる前では笑顔を絶やさず穏やかな彼であるが、家に帰れば豹変する。

 あの態度はなんだ、と私の胸座を掴んでは、突き放す。服で隠れて見えない場所に、見えるような跡がくっきりとつくように暴力を振る。たまに、顔を殴られる時もあった。そして顔に痣ができた場合は、この家から出ることも禁じられる。誰かが来てもけして家の扉を開けないようにと、そこは固く閉ざされる。

 バシン、と音を立てて私の身体は吹っ飛び、壁にぶつかった。

「今日、君は自分が何をしたのかわかっているのか」

 どのことを指すのか、よくわからない。とにかく、彼の目の前で彼の気に食わない行動を取るたびに、このような仕打ちを受ける。今日はどれが気に食わなかったのか。もしかして、もしかしなくても、あのキラキラ男を勝手に助けたことだろうか。

「すいません。あなたの部下の方でしたので」

< 9 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop