暗い暗い海の底
 そう、キラキラ男を助けたのは彼のためであることを主張する。とにかく私は彼のためにここにいるのだ。自分に言い聞かせる。

「だからって、勝手なことをしてもらっては困るんだよ」

 彼はもう一度私の胸座を掴めば、バシンと私の頬を打った。
 ああ、これでは明日、買い物に行けないなと、そんなことを考える。
 割れてしまった食器も片付けないと、そんなことを考える。

「君の顔は当分見たくない。出かけてくる」
 財布と車のキーをポケットに仕舞い込んだ彼は、バタンバタンと乱暴に扉を閉め、部屋から、そしてこの家から出て行った。
 彼の向かった先。それは恐らくあの女のところ――。

 とにかく彼が欲しているのは都合のいい人間。
 従順な妻、好きなときに抱ける女、自分のいうことを聞く部下。

< 10 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop