憎きセカンドレディに鉄槌を!(コミカライズ原作『サレ妻と欲しがり女』)
 なにも見つけられないまま、布団を無造作に捲りあげる。そして見つけてしまった。枕と敷き布団の間に挟まってる、ミディアムボブの私のものとは思えない、カールのかかった長い髪の毛――。

 枕の下から摘んだ長い髪の毛を、そのままゴミ箱に捨てて、捲った布団を元に戻す。床に落ちてるコンドームの袋は、あえてそのままにした。

「気持ち悪っ……」

 口元を押さえながら寝室から移動し、リビングのソファに座り込む。悪阻とは明らかに違う気持ち悪さが、胸の中を支配した。

 ワイドショーなんかでやってる、芸能人の不倫でよく見るシチュエーションーー妻の妊娠中の不倫、相手はドラマで共演している若くて美しい女優。

 良平さんはどんな気持ちで、彼女をここで抱いたのかな。彼女もわざわざここまでやって来て、喜んで抱かれたのかな。

「だから実家に帰ってる間、連絡がなかったんだ」

 本人に訊ねる前に自動的に結論が出てしまい、疑問に思うことすらできない。自然と涙が頬を伝っていった。

 本当はこの場所に、1秒でもいたくない。愛人と仲睦まじく過ごしたであろうここから一刻も早く出たいのに、足に根が張ったように動かすことができなかった。

 愛してる人の裏切りで、私の心に漆黒の重たい膿が溢れ出る。その膿の重さに突き動かされた私はスマホを手に取り、良平さんに手早くメッセージを送った。

『久しぶりにマンションに帰って来ました。体調がいいので、夕飯なにか作って帰ろうと思うんだけど、食べたいものはありませんか?』

 送信直後に既読がつき、ちょっとの間の後にスマホが着信を知らせる。瞬時に平静を装った私は口角をあげて、スマホをタップした。

「もしもし!」

『もしもし、美羽? 体調は大丈夫なのか?』

「大丈夫。実家のお世話になったおかげかも。良平さんも頑張ってるみたいだね」

『えっ?』

「お散歩したついでに、マンションに寄ったんだ。良平さん、一人暮らししてたときは、部屋の中は結構荒れ放題だったのに、私がいなくても綺麗にできるんだなぁって」

 弾んだ私の声に、スマホのむこう側で息をのむのがわかった。

「と、当然だろ。これから父親になるんだから、掃除くらいできるようにならないと……」

(――どんな顔で、今のセリフを言ったんだろう。浮気してるくせに!)

「もう少し実家でお世話になろうかと思ったんだけど、今日マンションに戻ってあらためて考えたの。良平さんの奥さんとして、きちんと頑張らないといけないなって」

 あらためて考えたというところにアクセントを置いて、意味深に語りかけた。すると良平さんは間を置かずに返事をする。

「美羽ひとりの体じゃないんだから、無理したらダメだと思う」

 所々上擦った声で告げらたからこそ、それが彼の本心とは到底思えなかった。

「わかってる。でも戻りたいっていう、私の意見を尊重してほしいな」

 これ以上この家で浮気はさせない――させるつもりなんて毛頭なかった。
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