知ってしまった夫の秘密
「そうですけど、そんなに簡単にはできないです」


 結婚してから一度も離婚は考えなかった。今も私の中でその選択肢はない。
 “健やかなるときも病めるときも”夫と一緒に生きていくと三年前に誓ったのだから。


「暴力を振るわれてもいませんし、浮気も借金もされていません。なにか事由がないと離婚は無理ですよ」

「互いに同意すれば、性格の不一致で別れる夫婦もいるよ。……でも、余計なこと言ってごめん。真琴さんが楽になるならそれもアリかと思っただけ」


 佑さんが私を元気づけるように、肩にポンポンと手を置いた。
 私にとってこれは頭を柔軟にして考えなければならない問題なのだろう。


「この店の名前は“Ombrello”。話はいつでも聞くから」


 “Ombrello”は、イタリア語で“傘”。
 雨が強くて辛いならいつでも雨よけになるよと、そう言われた気がした。


「旦那さんとわかりあえたらいいね」

「はい。ありがとうございます」


 夫婦ってなんだろう?
 考えたところで正解なんてないし、上を見たらキリがない。

 できるだけポジティブに考えていこう。
 変わった夫婦だとしても、家族だと思えば一緒に暮らしてはいける。

 大丈夫。巡二と楽しく過ごせるように努力をすれば……


 このときはまだ、この先に起きる出来事を知る由もなかった。

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