架空女子でごめんね

「後藤っ」



徹平くんの大きな声。



「な、何!?何だよ!?」



後藤くんの手が離れる。




その隙に。

私は走り出した。



(逃げなくちゃ)



一生懸命に走った。

後ろは振り向かずに。

止まらず、走った。






家の前まで来て。

ゼーハー言いながら。

もつれそうな足を、止めた。



額に流れる汗を拭って。

私は後ろを振り向いた。






あの日。

徹平くんに恋をした、あの日。



私はここで。

ときめきの魔法に包まれた。



自転車を止めて振り返った、あの日の徹平くん。

片手をあげて、私に手を振ってくれたよね?



『またな!すずめちゃん』



私の心には。

あの日と変わらず。

星空みたいな恋心は、確かにあるのに。



「……ごめんなさい」



呟いた言葉は、今。

誰にも届かない。













< 81 / 132 >

この作品をシェア

pagetop