夫の一番にはなれない
第16章 ふたり、はじまりの旅
電車が来る少し前、駅のホームは、朝の陽ざしに静かに包まれていた。
休日の始発に近い時間帯。
制服姿の生徒もいなければ、通勤のビジネスマンもまだ少ない。
わたしたちは並んで立っていた。
來はキャリーケースのハンドルに手をかけたまま、黙って遠くの線路を見つめている。
その横顔を見ているだけで、不思議と胸が落ち着いた。
日常を少しだけ抜け出す。
それは、ふだん氣づけなかったものを照らしてくれる特別な時間。
「電車で遠くに出かけるの、いつぶりだっけ?」
來がふとつぶやいた。
「うーん、修学旅行の引率とかは別にして……プライベートなら、ずっと前だね」
「だよな。たぶん、社会人になってからは初めてかも」
そんな当たり前の会話さえ、今日はいつもより特別に思えた。
ホームに電車がゆっくりと滑り込んできて、重い音を響かせながら止まった。
「乗ろうか」
「うん」
來がキャリーケースを引いて車内へ。