身ごもり婚約破棄したはずが、パパになった敏腕副社長に溺愛されました

 彼いわく親も江戸っ子気質だったらしく、この店に似合わない彼の言動が面白いと、なにげに巷で話題になっている。

 マスターは当たり前のように調理場のほうに声をかけ、豆を挽き始める。数秒後、調理場から白いコックコートに身を包んだ女性が出てきた。

 長い髪をお団子にし、涼しげな美人といった顔立ちの彼女は調理師の(みなもと)里実(さとみ) さん。私の二歳年上で、公私ともに仲よくしている先輩だ。

 彼女はチャームポイントである赤いフレームの眼鏡をくいっと押し上げ、今しがた私が注文を取った、入口に近い窓際の席に座っているお客様をまじまじと眺める。


「相変わらずスーツ姿が麗しいわね、青山(あおやま)さん。ネクタイ緩めてくれないかしら」


 きりっとした調子でものを言う里実さんは、外見も仕草も〝デキる女風〟なのだが、実は二次元のイケメンが大好物な夢女子である。そして、その夢をリアルな男性に求めてしまうらしい。

 今、彼女が瞳を輝かせて観察している男性は、三十歳くらいでとても整った容姿をしている。

 百八十センチはある高身長で、切れ長の瞳にすっと通った鼻筋がクールな印象。前髪を掻き上げたスタイルも男らしさを感じて、文句なしにカッコいい。
 
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