白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

夫は夜に動き出す

離縁は何とか思いとどまってくれたが、気は抜けない。
あの後、ディアナの洋服や化粧品などを買ったが、彼女はひたすら遠慮していた。
ディアナは、アクスウィス公爵家が資産家だからといって、買って当然という考えはない。まだ、買い物に慣れないにしても、彼女からはつつましさを感じた。

夜には、昨夜と同じように部屋へと送り届け、報告書に目を通しながら今はルトガーの報告を聞いていた。
報告書には、ディアナの仕送りが届かなかったスウェル子爵家のことが書いてある。
子爵家を継いでから、金の使い方が荒くなった事。特に娘ナティへのドレスなど買い物が増えていた。
ディアナの仕送りを、自分の娘が着飾ることに使っていたのだ。

「フィルベルド様。奥様のご実家をお継ぎになったスウェル子爵が夕方からずっと待っていますよ」
「待たせておけばいい。何故俺がディアナよりもスウェル子爵を優先しないといけないのだ」
「どうせ向こうが帰られないという自信があったのでしょう? 思った通りずっと肝を冷やして待っていましたよ」

朝一番でルトガーに頼んだ手紙は、スウェル子爵家へ宛てたもので内容は仕送りのことだった。スウェル子爵家はディアナの実家だったから援助も続けており、変わらず金を定期的に送っていた。

そして、仕送りのことを問いただせば、必ず俺を訪ねてくると思ったが、やっと会えたディアナとの時間は無駄には出来ないし、ディアナよりも優先する理由はない。
仕送りのことを問われれば逃げることも出来ないと分かっているから、存分に待たせている。

仕送りのことを気付かなかったのは、俺の落ち度だった。まさか、着服されるとは考えてもなく後悔しかない。

この6年、アスラン殿下をお守りするためにアスラン殿下の居場所を知られないようにしており、そのため俺の居場所も知られては殿下の居場所がバレる恐れがあったためにディアナからの手紙をもらう事は叶わなかった。

この6年で父上からの手紙も数えるほど。それも夜会やアスラン殿下の母上である王妃様の父上ゼノンリード王国の陛下から何とか受け取れたものだった。
父上が、公爵という立場ではなかったら、国からの書簡と一緒に受け取ることも出来なかった物だ。

そして、仕送りは直接ゼノンリード王国からは送ることが出来なかったために、アクスウィス公爵家の俺の資産から、定期的に送っていたものだった。

「それにしても離縁をしようとしていたなんて、奥様はなかなかやりますね」
「冗談じゃない。離縁状は燃やしたが、また取りに行かないようにしないと……ディアナからは目が離せない」
「フィルベルド様は優良物件なんですけどね……仕事も極秘事項ですから、このままだと捨てられるかもしれませんね」
「笑い事ではない!!」
「冗談ですよ。むしろ、奥様はフィルベルド様にお似合いだと思いますよ。結婚したのだから、お金が足りなければいくらでもアクスウィス公爵家に用立てしてもらって、夫がいないその間に好き勝手に贅沢も出来たでしょうに、そんなことをせずに自分で生きていこうとしていたなんて健気だと思いますよ」
「ディアナは、控えめなんだ。あんなに素晴らしい女性はいない」

ディアナは可愛い。彼女を思い出すだけで満たされる気持ちになる。

「フィルベルド様。こちらの部屋でお待ちです」

ルトガーが、宿の一室で止まりそう言った。先ほどの楽しそうだった様子はもうない。

俺たちが泊まっている部屋とは違う階の部屋。そこでスウェル子爵を待たせており部屋に行くと真っ青な顔の中年を過ぎた子爵がいた。これがディアナの叔父だ。

部屋に入るなり、スウェル子爵は慌てて立ち上がり頭を下げて来た。
その子爵の前に、膝を組んで座った。

「申し訳ありません! フィルベルド様!!」
「謝罪をするということは、ディアナの金を着服していたのは間違いないのだな」
「援助と一緒に定期的に送られていたので……その……」

だからそのままにしていた。そう言いたい雰囲気に、眉間に寄っていたシワが益々寄った。

「……娘のために金を使ったな?」

スウェル子爵は身体をびくりとさせた。

「お前たちの金なら好きにすればいい。だが、ディアナの金は返してもらう。援助金もこれより打ち切らせてもらう」
「そんな……っ……お金はすぐに返します……ですから……」
「勘違いするな。話し合いに来たのではないぞ。そちらの言い分を聞く気はない」
「……っ!?」

冷たく言い放つと、スウェル子爵は怯えていた。もう何を言っても無駄だと理解したのだろう。

「明日の夕方に、財産管理人をスウェル子爵家に派遣する。それまでに全ての金を用意しろ。なければ、邸の物を徴収する。話は、これで終わりだ」

膝が崩れ落ち、青ざめたままのスウェル子爵。そのまま、ルトガーと、部屋をあとにした。




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