白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

殿下の晩餐会は夫婦で

今夜の晩餐会は、アスラン殿下に招待されたものだった。
王宮で開かれた晩餐会は、フィルベルド様が団長を務める第二騎士団が列を作り迎え、その間をフィルベルド様のエスコートで進み、私には緊張しかない。
かと言って、壊れた人形のように歩くわけにはいかず、彼の傍らで淑女らしく歩いた。

これでも、フィルベルド様の妻なのだ。離縁状は燃やされてしまったけど、フィルベルド様が離縁をしたくなったらすぐにでも離縁は受けるつもりだ。彼には、女性がいたのだから。

フィルベルド様がいない間に学んだ淑女の勉強が役に立ったと自分を褒め、晩餐の準備された部屋に着くと、そこには赤毛に長身、国中の令嬢が寵を欲しがる男らしい端正な顔のアスラン殿下がルトガー様と待っていた。

「ディアナ・アクスウィス。よく来てくれた。君には、苦労をかけたようで詫びねばと考えていたんだ。よくフィルベルドを健気に待っていてくれた。私からも感謝しよう」
「ご招待ありがとうございます」

そう言って、膝を曲げてアスラン殿下に礼を執り、そう言った。
詫びのつもりの晩餐会の招待なのか、「ここには私たちだけだから、気を楽にしてくれ」と言って、気さくに話しかけてくる。

晩餐が始まると、フィルベルド様の向かいにアスラン殿下が座り、隣にはルトガー様が座る。
殿下の晩餐に席があるということは、ルトガー様も貴族なのだろうとわかる。
フィルベルド様は、幼い頃よりアスラン殿下とご友人のようで、緊張している私と違い会話をしている。そして、私にも穏やかな声で話しかけてきた。

「3年ほど前に、一度ゼノンリード王国の祝祭に来てくれたな。あの時の夜会ではフィルベルドに会わせてやれなくてすまなかった」
「お仕事ですから……私は気にしてません。殿下をお守りする任は、光栄なことです」

3年ほど前に、お父様とお義父様であるアクスウィス公爵様に連れられて、ゼノンリード王国の祝祭に行った事がある。
招待を受けたのは、お義父様がアクスウィス公爵家だからだ。
お義父様たちは、フィルベルド様に会えるかもしれない、と思っていたけど会える期待は無かった。私は、白い結婚だから夫であるフィルベルド様が時間を作るとは思えなかったからだ。そして、フィルベルド様に会うことは叶わなかった。

その時に、アスラン殿下にお義父様とご挨拶をした。でも、あの時のアスラン殿下は金髪碧眼だった。こんなに立派な赤い髪では無かった。少しだけ不思議と思ってしまう。

アスラン殿下とお会いするのはこれで二度目。しかも、殿下である方に髪の色を変えましたか? なんて気安く聞くことは出来ない。
魔法で髪の色も変えられるし、珍しいことではないのだから。

「フィルベルド。新しい邸は決まったか? 出来れば、城の近くにしてくれ」
「そう思っていますが、まだ、これだと思う邸がなくてですね……」

それは、私のせいです。フィルベルド様に連れて行かれた邸はどれも一流の邸ばかりで、正直私が尻込みしてしまったせいだった。
かと言って、フィルベルド様が粗末な邸に住むわけにはいかない。

それなのに、フィルベルド様は私のせいで邸が決まらなかったとは言わないどころか、今も殿下たちを目の前に微笑んでくる。
アスラン殿下とルトガー様は、当然のように和やかに見ている。

「ディアナ。フィルベルドはどうだ? この男は、いつも君の事ばかり話していたんだ。この無口で冷たいと言われている男が、君のことになると別人のようになるんだ。その君に何か詫びを贈ろう」

どうだ……と言われても、再会してから暴れ馬のように時間が過ぎた。
フィルベルド様は、私に間男がいると思い込んで、止めを刺しに行こうと壊れかけていたし……。
間違いなく人生で一番心乱された三日間だ。

「ゆ、愉快な良い人……ですか?」
「フィルベルドの感想でそんなことを言った女性は初めてではないのか……?」

目が点になりながらも、私の返答に返してくれるアスラン殿下は意外と良い人だ。

「奥様は、真面目なわりに意外とユーモアがあり、フィルベルド様にお似合いですよ」

笑いを堪えたいのか、ニンマリと口角が上がったルトガー様を見ると、絶対に離縁状の出来事を知っていると思った。まさか、本当に居もしない間男を探そうとしているのでは……と困惑しながらフィルベルド様を見ると目が合い思わず逸らしてしまう。
その様子にアスラン殿下たちは、フフッと笑みを溢す。

「邸がまだ決まらないと言っていたな。フィルベルド。良ければ私の邸を一つやろう。立地も良いところだし、城から近ければ、ディアナのもとにすぐに帰れるだろう。ディアナ。君もそれでどうだ? 君への詫びにはならないだろうか?」
「そうですね……ディアナは、どうだ? 城から近ければ毎日一緒にいられる時間が少しでも確保できる。今日も、城から近いところを探していたし良い話だ」
「フィルベルド様の負担になりませんか? 毎日帰られるなんて……」

それに、アスラン殿下から邸を頂くなんて、光栄なことだけどいいのか……と思ってしまう。

「フィルベルドがいなければ今の私はいなかった。遠慮なく受け取りなさい」

アスラン殿下が、笑顔を見せて威厳のある表情でそう言った。
殿下からの賜りものを断ることは出来ない。

「アスラン様。ありがたく頂戴します」

フィルベルド様に続いて私も礼を執り、終始晩餐は和やかなもので終わり、慌ただしいフィルベルド様の三日間の休暇も終わった。









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