白い結婚なので離縁を決意したら、夫との溺愛生活に突入していました。いつから夫の最愛の人になったのかわかりません!

待ち合わせに来ない夫

任命式のために登城したが、約束のフィルベルド様は来ない。

城の入り口付近で待ち合わせていたけど、周りも貴族たちがそれぞれの控え室に向かっていたりと人の横行はそれなりにある。

その中で、私はつばの広がった帽子を被ったままで待っている。一歩後ろには、私のドレスの入った衣装ケースを持っているオスカーと、侍女の装いでいるミリアが立ち尽くしていた。



「オスカー。ミリア。フィルベルド様はきっと忙しいのよ。私たちだけで先に行きましょうか……」



フィルベルド様は、殿下のお姿を見せるパフォーマンスみたいなものだ……と言っていたけど、フィルベルド様だって今日の主役で間違いない。

そう思うと、ご迷惑はかけられないと思い、三人で控え室へと行った。



「先に来て良かったのでしょうか?」

「随分待ったし……同じお城にいるんだからフィルベルド様なら、私たちがいなかったら控え室へと行ったと思うわよ」



心配そうに聞いてきたミリアに気にしないようにと笑顔でそう言い、ミリアは控え室に着くなりドレスがシワにならないように広げている。

私は、フィルベルド様が来ないかと廊下に出ているオスカーと控え室の周辺を少しだけ歩いた。



これから任命式だから、控え室にはみんな荷物を置いて会場へと向かっている。

従者や侍女に荷物だけ持って来させて、控え室には寄らない方のほうがほとんどだけど。

その従者や侍女たちも任命式を見たくて、早く席を取りに行かなければ、と急いで控え室を去っていく。そのため、控え室付近はひと気がない。その上、私の控え室はフィルベルド様の奥様だから、とちょっと離れたところにあった。身分を考えた部屋割りなんだろう。



ガラス窓からの日差しで明るい廊下をオスカーと歩き、階段まで行こうかと悩んでいると微かに人の声がした。





「…………私、ずっと待っていましたのよ……それなのに、お帰りになってから、あまりお会いになってくださらないなんて……」





女性のすがるような声に足を止めてオスカーと顔を見合わせる。



「……聞かなかったことにして、そっと離れましょうか?」

「そうですね……」



ひと気がますますない廊下の角の奥から聞こえた痴話げんかであろう情事を見るつもりはない。オスカーとお互いに頷き踵を返すと、聞こえて来た男性の声に足が止まった。

フィルベルド様の声だ。







「すまない……だが、私にはやらねばならないことがある。それに、任命式が始まる時間だ。アルレットもすぐに行きなさい。遅くなればお父上が心配する。今夜は夜会もあるから、それまで待っていなさい」

「はい。夜会でも、お声をかけて下さいね……」

「……さぁ、行きなさい」



美人の令嬢はフィルベルド様にしがみつくように胸板に抱きつくと、彼はそれを肩に手を置きそっと離す。そして、令嬢は目を潤ませて走り去った。









廊下の角にへばりつきそれをオスカーと見ていた。



まさかのフィルベルド様の逢引き現場に居合わせるとは予想もしてなかった。

私との約束の待ち合わせに来なくて、フィルベルド様は令嬢とこっそりと逢引きをしていたのだ。

思えば、再会の夜会でも女性といたし、お城でも女性といた。

愛人を囲っているのかと思わずにはいられなかった。



「……フィルベルド様は、お盛んなのかしら?」



呆然と見ていた私はポツリとそう言った。



「どうしましたか、急に……そんなこと聞いたことありませんよ」

「でも今、ご令嬢と絡み合っていて……」

「絡み合っているというか、女性が抱きついた感じに見えましたが……それに、今のはフィルベルド様ですか?」

「絶対にフィルベルド様よ……」



いくら人目を避けた場所でも、あれはフィルベルド様だった。



「愛し合っている女性がいるなら、私は身を引くべきかしら……」

「それは、おやめください! 奥様がいなければフィルベルド様が悲しみます!」

「でも、愛し合っていない私がいてもフィルベルド様はお困りじゃないかしら?」

「しかし、奥様はフィルベルド様の最愛の方だと伺っておりますし……」



だから、私はフィルベルド様の最愛じゃないと思う。



「おかしいな……」と悩むオスカーに「部屋に戻りましょう」と言って速くなった鼓動とは裏腹にゆっくりと部屋に戻った。





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